- 「学校薬剤師ってどんな仕事なの?」
- 「自分は学校薬剤師になれるの?」
と考えていませんか?
学校薬剤師は小中学校などで誰もが目にしている職業です。
薬剤師の中でも特殊な働き方であり、「働き方や年収はどの程度なの?」「どうすればなれるの?」と疑問に思っている人はあなたと同じでとても多いのです。
本記事では、数多くの薬剤師転職をアドバイスしてきた知見と経験をもとに、学校薬剤師の働き方を紹介します。
このページを読めば、学校薬剤師について理解が進み、「学校薬剤師の仕事と年収」「学校薬剤師になる方法」がわかるでしょう。
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1. 学校薬剤師とは?
学校薬剤師は多くの人が幼少期に接した事のある職業ですが、薬剤師の働き方としてはメジャーでは無いため、どんな存在なのかあまり知られていません。
1章では、学校薬剤師の存在についてご説明します。
1-1. 学校薬剤師はどこで働いているのか
学校薬剤師の存在は学校保健安全法によって決まっており、日本全ての幼稚園・小学校・中学校・高等学校・高等専門学校・特別支援学校(盲学校・養護学校など)に1名以上置くことになっています。
上記対象は、国立・公立・私立といった学校の種類に寄らず、大学を除く全ての学校が対象となっています。
学校保健安全法では、学校薬剤師以外にも、多くの学生にとって身近な学校医・学校歯科医も置く事と決まっています。
1-2. 学校薬剤師は何をやっているか
学校薬剤師は学校の非常勤職員として雇われており、学校の環境衛生について検査し、生徒にとって快適な学校環境を作るよう働いています。
幼稚園〜高等学校卒業までの発育・発達期という重要な期間に学校保健を担当する、社会的に必要でやりがいのある仕事と言えるでしょう。
「教育者にふさわしい人間性」「教育に正しい理解を持つ」「職務に必要な知識の研鑚」を求められており、単なる薬剤師のキャリアを超えている仕事です。
具体的な仕事内容は3章でご説明しますが、「学校の衛生環境を安全な状態に保つ」ために様々な業務を請け負っています。
1-3. 今、なぜ学校薬剤師が注目されているか
学校指導要領の改訂によって、中学3年生の保健体育に「くすり教育」が導入されて以来、学校薬剤師の働き方は注目されています。
近年の薬物乱用事件を未然に防ぐために、学校薬剤師は単なる学校衛生を守る仕事から、「薬」「教育」を掛け合わせた単語である「メディケーションの推進」が求められているのです。
2. 学校薬剤師の歴史
2-1. 学校薬剤師の特徴
学校薬剤師は、昭和33年に制定された学校保健安全法によって定められており、50年以上も続いている制度です。
世界でも珍しく、下記のような経緯から唯一日本のみで制定されている職業です。
2-2. 学校薬剤師が定められた経緯
昭和5年に北海道の小学校で、風邪薬と誤って殺菌消毒液(塩化水銀)を生徒に飲ませてしまう事件が発生しました。
この生徒はのちに亡くなってしまい、この事件をきっかけとして学校薬剤師の存在が求められていったのです。
当時の学校では、衛生環境はもちろん医薬品管理も十分ではありませんでした。
この事に問題意識を持った自治体と薬剤師が中心となって学校保健安全法が制定され、日本全国の学校に薬剤師を設置する事が決まったのです。
よって設置当初の学校薬剤師の職務は、農薬や消毒薬といった危険な医薬品の管理が中心でした。
3. 学校薬剤師の仕事内容
上記の通り、学校薬剤師の職務は学校保健安全法執行規則で規定されています。
3章では、規定されている仕事内容について分かりやすくご説明します。
3-1. 学校保健計画・学校安全計画の立案
まず初めに挙げられる仕事内容は、学校保健計画・学校安全計画の立案です。
これらは学校薬剤師が一人で立案する訳ではなく、学校保健安全委員会への参加等を通じて立案していきます。
3-2. 環境衛生の検査・指導・助言
学校全体の環境衛生について検査するとともに、問題点が見つかった際には適切な指導および助言を行います。
学校での環境衛生には、下記のようなものがあります。
Ⅰ. 水道水
水道水は、教職員による日常の検査以外に、学校薬剤師が定期的に科学検査を行っています。
Ⅱ. 水泳プール
ほぼ全ての学校に設置されている水泳プールですが、その水質は生徒の汚れや汗などで、すぐに汚れてしまいます。
「プール熱」など水質汚染が原因の病気もあり、プール環境衛生の適切な検査と状態保全は欠かせません。
「プールの水質や消毒は基準内にあるか」だけでなく、消毒を行う付属施設や設備についても、管理衛生状態を検査します。
Ⅲ. 便所などの排水周り
昔に比べて今の学校便所は極めて綺麗になっており、水洗化率も極めて高くなっています。
とはいえ、清潔で快適な学校生活において、便所などの排水周りの管理は極めて重要です。
決められた項目について検査し、環境衛生被害が出ないように管理する事が求められます。
Ⅳ. 給食
給食施設の管理は、学校薬剤師の仕事の中でも最も大切な仕事の一つと言えるでしょう。
学校給食で食中毒が出てしまうと、一度に大勢の生徒が被害にあってしまいます。
サルモネラ菌・大腸菌・O-157など、学校給食での食中毒事例はいくつもあります。
学校薬剤師は、給食施設の衛生環境状態を検査するだけでなく、食器・器具の洗浄状況についても調べる必要があります。
Ⅴ. 照明および採光
「薬剤師の仕事?」と疑問に思う人もいるでしょうが、照明および採光は環境衛生の一つです。
「十分な明るさがあるか」「教室内の明るさは均等か」「眩しすぎないか」といった項目について、専用の照度計を用いて検査します。
Ⅵ. 騒音
照明採光と同様、「薬剤師の仕事?」と疑問に思う人もいますが、騒音環境も学校衛生の一つです。
騒音計を使用して、「教師の声が聞こえるか?」「勉強の妨げになる騒音はないか?」についてチェックします。
Ⅶ. 換気・空気
主に冬季は暖房の活用によって、教室内の空気が悪化する傾向にあります。
教室内空気の環境について「温度」「湿度」「炭酸ガス濃度」「浮遊粉塵」などの項目について検査します。
最近はシックハウス問題に対応するために、「ホルムアルデヒド」「ダニアレルゲン」などの項目も検査対象に含まれるようになりました。
Ⅷ. ネズミ・衛生害虫の駆除
ネズミやハエ・ゴキブリといった衛生害虫は、病原菌を媒体して学校全体の衛生状況を悪化させてしまいます。
殺鼠剤や殺虫剤を適切に使用し、駆除する事が求められます。
3-3. 健康相談・保健指導
生徒の健康相談や保健指導も大切な役割です。
基本的には学校医が担当しますが、感染症や食中毒などの症状を生徒が訴えた際には、学校薬剤師が担当することになります。
3-4. 医薬品の管理
医薬品の管理は、2章でご説明した通り学校薬剤師が設置された理由であり、大切な職務です。
保健室や科学室などで使用する医薬品・毒物・劇物などの薬品および用具について、適切に管理されていることを検査します。
3-5. 薬物乱用防止活動
麻薬・覚せい剤・シンナー・違法ドラッグなどの利用は、日本だけでなく世界中で大変深刻な問題となっています。
特に近年では、薬物乱用の低年齢化が進んでおり、学校教育での防止活動の重要性は高まっていると言えるでしょう。
もちろん、学校薬剤師だけで対応できる問題ではありません。
地域社会と協力しながら、薬物乱用の危険性の共有や防止活動に取り組んでいくことが求められています。
3-6. 「薬の正しい使い方」授業への参画
近年、学校指導要領に「薬の正しい使い方」授業が取り入れられました。
これは、上記の薬物乱用問題への対応が大きな背景ですが、「薬の問題」には運動部における薬物ドーピングや、食物アナフェラキシーショック・シックハウス問題・PM2.5など、様々な問題があります。
もちろん、授業参画は薬剤師だけで対応するわけではなく、学校教師と協力しながら「薬の正しい使い方」授業を行っていくことになります。
4. 学校薬剤師の報酬は?
学校薬剤師の報酬は、県・市などの条例などで一律ではありませんが、概ね年間10万円〜20万円程度(全国平均:16万円)です。
多い学校だと年間30万円程度のケースもありますが、低いケースだと1〜2万円という市町村もあります。
非常勤・年に数回の勤務といっても、決して割の良い仕事ではありません。
学生時代のアルバイト程度の収入と考えて良いでしょう。
もちろん、学校薬剤師になる人のほとんどは収入を求めている訳ではなく、地域社会への貢献をやりがいにしています。
学校の入学式・運動会などの行事に招待される事もあり、「子供が通っている学校に貢献したい」という理由で学校薬剤師になる人は多いようです。
5. 学校薬剤師の課題と今後
5-1. 学校薬剤師の課題:「人員不足」
学校薬剤師の課題は「人員不足」です。
4章でご説明した通り、学校薬剤師の収入だけで生活する事はできず、ほとんどの薬剤師は病院や調剤薬局・ドラッグストアと兼務して役割に当たっています。
その中でも、調剤薬局・ドラッグストア勤務の薬剤師は異動や転勤があるため、特に遠隔地への転勤の場合は、担当している学校薬剤師を辞めざるを得ないのです。
特に近年、調剤薬局・ドラッグストア業界はM&Aなどによる多店舗化を進めており、異動や転勤は頻繁になってきています。
急な退職の際は、近隣の学校薬剤師が代行しているのが現状です。
5-2. 学校薬剤師の今後:「薬物教育の推進」
学校薬剤師の今後は、「薬物教育の推進」です。
3章でご説明した通り、近年学校の衛生環境が良くなってきた一方で若年層の薬物乱用事件が多発しており、学校薬剤師の役割も「衛生環境の保全」から「青少年の薬物乱用防止」に移ってきています。
薬物乱用は、本人の人生に大きな影響を及ぼす重大な犯罪です。
「薬の正しい使い方」授業への参画にとどまらず、地域社会と連携しながら、青少年の意識を変えていく事が求められているのです。
6. 学校薬剤師になるためのコツ2選
6章では、学校薬剤師になるために必要な事をご紹介します。
6-1. 学校薬剤師に求められる事
学校薬剤師には、「薬剤師としての知識やスキル」および「学校保健活動に従事する人間性」の両面が求められます。
学校薬剤師は各学校に1人程度しか配属されていないため「わからない時は先輩に聞く」事ができません。「薬剤師としての知識やスキル」を保有した状態が求められます。幼稚園〜高等学校という発育発達の重要な期間に子供と接するため、適切な「学校保健活動に従事する人間性」も必要です。
学校薬剤師部会では、下記3点を薬剤師の必要条件として定めています。
- 教育にふさわしい人間性を持つ
- 教育に正しい理解を持つ
- 職務に必要な知識の研鑽
6-2. 学校薬剤師に求められる資格
学校薬剤師は、薬剤師であれば誰でもなる事ができます。つまり必要な資格は「薬剤師免許」のみです。
しかし上記の通り、薬剤師免許を取得したからといって、すぐに任命されるものではありません。薬剤師として十分な経験を経た社会人が、社会貢献の一環として活動する仕事と言えるでしょう。
6-3. 学校薬剤師の任命はどのようにされるか?
学校薬剤師は基本的に一校につき一人ですので、欠員募集がほとんどです。またその募集も求人広告等に掲載されるわけではありません。
学校薬剤師に欠員が出ると、教育委員会が地域薬剤師会に相談し、地域薬剤師会が学校薬剤師を推薦する流れとなります。とはいえ、その多くは前任者の紹介で任用されるのが現状です。
6-4. 学校薬剤師になるコツ
上記のように学校薬剤師は欠員募集がほとんど、かつ前任者の紹介が中心なので、「狙って」学校薬剤師になる事は至難の技だと言えるでしょう。
ただし、その中でも、学校薬剤師になる確率を高めるコツはいくつかありますので、ぜひ試してみて下さい。
「地域の教育委員会・薬剤師会に問い合わせ、欠員状態の学校を探す」
5章でお伝えした通り学校薬剤師は欠員募集がほとんどですが、前任の薬剤師が転勤した後に欠員募集が埋まらず、「近隣の学校薬剤師が代行している」ケースがあります。教育委員会・薬剤師会は代行ではなく専任の学校薬剤師を設置したいと考えているので、ぜひ問い合わせて欠員状態の学校を探しましょう。
「個人薬局の店長や経営者になる」
学校薬剤師は、日中に学校を訪れて検査する必要があるため、「調剤薬局に勤務する薬剤師」の掛け持ちは厳しいケースがあります。よって、薬剤師会が任命する際には、時間に融通が効く個人薬局の薬剤師を優遇するのです。どうしても学校薬剤師になりたい場合は、個人薬局に転職すると確率が僅かながら上がるかもしれません。
さいごに
学校薬剤師について、役割や仕事内容についてご紹介してきましたが、いかがでしたか?
お伝えした通り、学校薬剤師には「金銭メリット」を求める事は難しいでしょう。しかし地域社会に貢献し、自身や自身の子供が通う学校を担当することは、薬剤師としてのやりがいと喜びに繋がります。ぜひ機会があれば、学校薬剤師の任用を受けてみることをおすすめします!
学校薬剤師として働くためには、時間に融通がつく職場に勤めている必要があります。どうしても学校薬剤師になりたい方は、時間融通の持てる調剤薬局などに転職する事も一手かもしれません。
※薬剤師が転職する時の注意点
薬剤師は転職率が高く、「年収アップ」などの理由で転職する人が多い業界ですが、職場雰囲気の悪さや長時間労働に後悔するケースが多いのも事実です。薬剤師の転職で失敗しない!体験談と転職ノウハウの全てを見て、後悔しない転職を実現してください。
特に、初めて転職する人は、職場雰囲気のヒアリングや面接対策などのため、転職エージェントを活用することをお勧めします。薬剤師のための転職エージェント全知識|1から理解し徹底活用!を参考にすると良いでしょう。
転職活動は、将来のキャリアや待遇などに悩み、すぐに決められるものではありません。しっかり考えた上で、次の一歩を踏み出してくださいね。
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