「派遣でも退職金をもらえるって本当?」と考えていませんか。
結論から言うと、2020年4月施行の派遣法改正で、労使協定方式の派遣会社は、一般の労働者の退職金と同等以上の額を派遣社員に確保することが義務になりました。前払いなら、一般的な賃金の5%以上です。受け取り方は、時給への上乗せ、中小企業退職金共済(中退共)などの積立、退職金制度の3通りです。派遣先の社員を基準に待遇を決める派遣先均等・均衡方式の場合は、派遣先の退職金制度に準じます。
ただし退職金の支給は、すべての派遣社員が対象となるわけではありません。支給方法によって、細かい条件が設けられているからです。
また、厚生労働省の令和7年度の集計(派遣事業所の労使協定書のうち、退職金の方法を確認できた269事業所)では、退職金を「あらかじめ時給に上乗せする」前払い、または前払いと積立を合わせた方法が55.4%で最多です。退職時に一時金で受け取れる退職金制度を選んでいる事業所は29.4%、中退共などの積立は6.3%です。(参考:厚生労働省)
この記事では派遣のプロである私が、以下の流れで、派遣の退職金制度の要点と注意点を、厚生労働省の資料をもとに解説していきます。
すべて読めば、退職金制度の概要や自分が退職金をもらえるのかどうかが分かるでしょう。
目次
1.派遣法改正(2020年)により派遣社員でも退職金が受け取れるようになった
2020年4月施行の派遣法改正により、労使協定方式の派遣会社は、一般の労働者と同等以上の退職金(相当額)を派遣社員に確保する義務を負うようになりました。確保の方法は、労使協定方式(派遣会社と派遣社員の代表が結ぶ労使協定で待遇を決める方式)なら前払い・中退共など・退職金制度の3通りから派遣会社が選びます。
今回の派遣法改正は、同一労働同一賃金の実現を目的としています。
同一労働同一賃金とは、「仕事内容などが同じであれば同じ待遇に、違いがあれば違いに応じたバランスのとれた待遇にする」という考え方です。正規雇用と非正規雇用の間の不合理な待遇差をなくすため、厳格なガイドラインも策定されています。
2026年10月1日から適用の改正ガイドラインでは、派遣労働者の項に「退職手当」が独立の項目として設けられました。退職手当には労務の対価の後払いや功労報償などの性質があります。派遣先の正社員と同様にその性質と目的が派遣社員にも当てはまるのに均衡のとれた退職手当を支給しない場合は、不合理と認められる待遇差に当たりうると明記されています。
退職手当については…労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが、派遣先に雇用される通常の労働者と同様に派遣労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず…均衡のとれた内容の退職手当を支給せず…不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである
出典:厚生労働省『同一労働同一賃金ガイドライン』(改正後の指針本文)
2026年10月1日施行の改正では、退職金の扱いを派遣会社に確かめる場面のルールも変わります。派遣会社が雇入れ時と派遣時に渡す書面には、待遇の違いの内容や理由について説明を求められる旨が加わります。派遣会社向けの指針には、労使協定を結んだときと派遣社員を雇い入れたときに協定を周知することが書き加えられました。協定を結ぶ派遣社員側の代表が適正に選ばれていなければ協定そのものが認められず、派遣先の社員との均等・均衡で待遇を確保しなければならないことも明記されています。
出典:厚生労働省(令和8年10月1日施行の労働者派遣法施行規則・指針の主な改正事項)
ただ、すべての派遣社員に退職金が支給されるわけではありません。
支給には、退職金の受け取り方に応じてそれぞれ条件が設けられているからです。
退職金の受け取り方や条件を把握するためには、まずは派遣社員の待遇を決める2つの方式を理解する必要があります。
2.派遣社員の退職金を取り決める2つの方式
派遣社員の待遇の決め方は、(1)派遣先均等・均衡方式、(2)労使協定方式の2つの方式があります。派遣会社がどちらを採用しているかによって、退職金の金額や支払い方法が異なります。
原則として派遣先均等・均衡方式が用いられることにはなっていますが、実態としては労使協定方式が採用されることが多いです。
派遣先均等・均衡方式(派遣先の社員を基準に給与・待遇を決める)

派遣先均等・均衡方式とは、派遣先の社員を基準にして派遣社員の給与や待遇を決める方式です。
分かりやすく言うと、仕事内容や転勤・配置転換の範囲が派遣先企業の正社員と同じなら派遣社員も同じ待遇にするということです。違いがあれば、違いに応じたバランスのとれた待遇にします。
基準となる社員の情報は、派遣先企業から派遣会社へ提供されます。
退職金の有無や金額も、派遣先企業の社員が受け取る条件・金額によって取り決められます。
補足 派遣先均等・均衡方式の場合、必ず退職金が支払われるわけではない
派遣先均等・均衡方式の場合、必ず退職金が支払われるわけではありません。
なぜなら、企業によってはそもそも正社員にも退職金制度がないことがあるからです。
事実、令和5年就労条件総合調査では、退職給付制度がない企業は全体の24.8%で、約4社に1社にあたります。企業規模が小さくなるほどその割合は高く、1,000人以上の企業では8.8%、30〜99人の企業では29.5%です。(参考:厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』)
労使協定方式(労使協定に基づいて給与・待遇を決める)

労使協定方式とは、派遣会社と派遣社員の組織(労働組合・過半数代表者)が一定の要件を満たす「労使協定」を締結する方式です。その協定に基づいて派遣社員の待遇を決めます。
分かりやすく言うと、派遣会社と派遣社員の代表が話し合って決まり事を作り、その決まり事に沿って派遣社員待遇を決めるということです。
この方式の場合、賃金は派遣会社の労使協定で決まり、派遣先企業の社員の給与水準には左右されません。ただし、業務に必要な教育訓練と、給食施設・休憩室・更衣室の利用は、労使協定方式でも派遣先の社員と同じ扱いが求められます。
なお、派遣社員が不当に悪条件の協定を結ばされることがないように、労働者派遣法では、賃金額が平均を下回ってはならないと明記されています。
補足 労使協定方式の場合、退職金は条件を満たせば支払われる
労使協定方式の場合、退職金は一定の条件を満たせば支払われます。
労使協定で取り決められる待遇の中に、退職金も明記されているからです。
労使協定の対象となる派遣労働者の賃金には、基本給、手当、賞与(特別給与)、退職金が含まれます(時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当等は除きます。)
出典:厚生労働省『不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル』、厚生労働省『令和9年度の「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」等について』
ですが、派遣会社が採用している退職金制度によっては、退職金を受け取れないケースもあります。
なお、不合理な待遇の禁止事項に違反した派遣事業者は、改善命令・事業停止命令・許可の取消しといった行政処分の対象になります。
原則として派遣先均等・均衡方式が用いられるが、実際は労使協定方式が採用されることが多い
同一労働同一賃金の観点からすると、原則として(1)派遣先均等・均衡方式を用いるのが適切ですが、実際のところは(2)労使協定方式が採用されることがほとんどです。
なぜなら、派遣先均等・均衡方式では派遣先が変わるたびに賃金水準が変わって派遣社員の収入が安定しにくいからです。また、派遣先にも自社社員の待遇情報を派遣会社へ提供する義務があります。
この情報提供を敬遠する派遣先企業も少なくなく、お金をもらう側の派遣会社としては、立場上強く要求もできません。結果として労使協定方式にせざるを得ないようです。
実際、令和7年度の厚生労働省の集計では、待遇の決め方を確認できた302事業所のうち87.4%が労使協定方式です。(参考:厚生労働省)
どちらの方式かで退職金の受け取り方が変わるので、派遣会社に登録するときは待遇の決め方も確かめておきます。たとえばランスタッドは、派遣スタッフの待遇を原則として労使協定方式で決めていると公式サイトで公表しています。ランスタッドに登録するときは、担当者に自分の区分の方式を聞いておきましょう。
3.派遣社員が受け取れる退職金制度4パターン
派遣社員が受け取れる退職金には、4つのパターンがあります。
| 労使協定方式 | (1).前払い制度 (2).派遣会社独自の退職金制度 (3).中小企業退職金共済制度・企業年金等 |
| 派遣先均等・均衡方式 | (4).派遣先企業の退職金制度 |
労使協定方式を採用する派遣会社が多いため、(1)~(3)が一般的で、中でも(1).前払い制度を採用している派遣会社が多いです。
なお、どの制度を採用するかは派遣会社が決めるものなので、派遣社員が選ぶことはできません。(1)と(3)は1人に併用することもできます。
前払い制度(退職金をあらかじめ時給に上乗せ)
前払い制度は、退職金をあらかじめ時給に上乗せして派遣社員に支払う方法です。
この場合、雇入れ時に渡される労働条件の書面(退職手当の有無の欄)や就業規則で、「前払い退職金」「時給に退職金相当額を含む」などの記載を確認できます。
前払い制度には、就労期間に関わらず、退職金を受け取れるというメリットがあります。
ただしこの場合、時給として扱われるため課税対象となってしまう点は知っておきましょう。
計算方法【一般の賃金×5%以上】
前払い制度では、国が職種・地域ごとに示す一般的な賃金(一般基本給・賞与等)の5%以上を、退職金相当額として時給に上乗せします。基準になるのは派遣社員本人の時給ではなく、この一般的な賃金です。
この5%という値は、厚生労働省の職業安定局長通達で毎年度示されるものです。令和3年就労条件総合調査の「退職給付等の費用」が現金給与額に占める割合をもとにしています。令和8年度(2026年度)適用分も令和9年度(2027年度)適用分も5%です。
一般の労働者の現金給与額に占める退職給付等の費用の割合…を一般基本給・賞与等に乗じた額を一般退職金とし、当該割合を「5%」とする。
出典:厚生労働省『令和9年度の「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」等について(職発0828第5号)』
たとえば時給1,200円の派遣社員で、その時給が国の示す一般的な賃金と同じ場合、退職金を加算後の時給は以下のようになります。
一見するとわずかしか変わらないようにも見えますが、フルタイム(8h)、月20日勤務で3年働いたとすると、約35万円分の退職金を受け取っていることになります。
前払いの退職金はいくら?時給別・勤続年数別の早見表
前払いの退職金は、自分の時給を国の示す一般的な賃金とみなすと、フルタイムで5年働いて時給1,200円で約58万円、時給1,600円で約77万円です。ここでの時給は退職金を上乗せする前の額で、上の計算と同じく「時給×5%×働いた時間」で出しています。
下の表は、1日8時間・月20日勤務で計算した退職金相当額です。
| 時給 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 |
| 1,200円 | 115,200円 | 345,600円 | 576,000円 | 1,152,000円 |
| 1,400円 | 134,400円 | 403,200円 | 672,000円 | 1,344,000円 |
| 1,600円 | 153,600円 | 460,800円 | 768,000円 | 1,536,000円 |
| 1,800円 | 172,800円 | 518,400円 | 864,000円 | 1,728,000円 |
表の額は、自分の時給を国の示す一般的な賃金とみなした概算です。実際の上乗せ額は職種・地域ごとの一般的な賃金に5%を掛けて決まるので、自分の時給から計算した額とは一致しません。
また前払いの退職金は毎月の給与に含まれて受け取り済みで、退職時にこの額をまとめて受け取るわけではありません。
求人の時給を比べるときは、その時給に退職金相当額が含まれているかを先に確かめます。前払いの会社の時給には退職金が含まれ、退職金制度や中退共の会社は時給とは別に支給・積立をするので、時給の数字だけを並べても比べられません。スタッフサービスやランスタッドに登録して求人を探すときも、時給に退職金相当額が含まれるかを担当者に聞いてから比べてください。
派遣会社独自の退職金制度
派遣会社独自の退職金制度により、支給条件を満たした派遣社員は退職金の受け取りが可能です。
条件は一般的に勤続年数3年以上と定められ、金額は勤続年数に応じて変動するようになっています。
なお、支給条件や金額は「同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上」にしなければならないとされています。
派遣会社独自の退職金を受け取るには、同じ派遣会社での勤続が、協定で定める最低勤続年数まで続く必要があります。最低勤続年数は、国が労使協定のイメージ(別表3)で示す水準が3年で、協定ではこれ以下にしなければなりません。登録型の有期雇用派遣は派遣先ごとの契約期間だけ雇用される形なので、勤続を積み上げにくい働き方です。
このため、派遣会社独自の退職金制度で退職金を受け取りやすいのは、無期雇用派遣など、同じ派遣会社で長く働く人です。
なお、同じ派遣先の同じ部署で働ける期間の上限が原則3年という決まり(通称「3年ルール」)は、派遣会社での勤続年数を区切るものではありません。
3年ルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。
≫派遣3年ルールとは?3年後はどうなる?メリット・デメリットを詳しく解説
支給金額の計算方法【退職時の基本給×支給月数】
退職金は【退職時の基本給×支給月数】で計算されます。
内訳は少々煩雑ですが、端的にいうと「働いた年数」と「退職理由(自己都合か会社都合か)」によって、支給月数(基本給の何ヶ月分支払われるか)が決まります。退職時の基本給にその月数を掛けた金額が、最終的な退職金となります。支給月数は、国が労使協定のイメージ(別表3)で示す水準(下の表)以上でなければなりません。
国が労使協定のイメージ(別表3)で示す水準(支給月数、令和9年度適用分)
| 勤続年数 | 3年 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 33年 | 定年 |
| 自己都合 | 0.6 | 1.1 | 2.5 | 4.2 | 6.3 | 8.3 | 11.4 | 11.6 | ― |
| 会社都合 | 0.8 | 1.5 | 3.2 | 5.2 | 7.4 | 10.1 | 11.8 | 13.0 | 16.0 |
出典:厚生労働省『労使協定のイメージ(令和9年度適用通達対応版)』別表3
たとえば基本給25万円の派遣社員が、勤続3年で自己都合退職し、その会社の支給月数が1.0ヶ月の場合、以下のようになります。
支給月数は派遣会社ごとに異なりますが、国が毎年度、労使協定のイメージ(別表3)で示す水準(上の表)を下回らないように決めることになっています。この例の1.0ヶ月は、勤続3年・自己都合の別表3の0.6ヶ月を上回っています。
国が労使協定のイメージで示す別表3の水準を使うと、勤続年数ごとの退職金の最低ラインが分かります。下の表は、支給月数が別表3(令和9年度適用分)ちょうどの場合の退職金です。協定の支給月数は比較の基準になる水準を下回れないので、退職金制度の派遣会社では、同じ基本給ならこの額以上になります。比較の基準は、労使が国の示す複数の調査から選んで設定するもので、別表3以外の調査はどれも別表3より高い水準です。
| 基本給と退職理由 | 3年 | 5年 | 10年 |
| 基本給20万円・自己都合 | 12万円 | 22万円 | 50万円 |
| 基本給20万円・会社都合 | 16万円 | 30万円 | 64万円 |
| 基本給25万円・自己都合 | 15万円 | 27.5万円 | 62.5万円 |
| 基本給25万円・会社都合 | 20万円 | 37.5万円 | 80万円 |
別表3の水準では、退職金は勤続3年から支給され、協定で定める最低勤続年数は3年以下にしなければなりません。勤続3年未満で退職金が出るかは、その派遣会社の協定の最低勤続年数で決まります。
出典:厚生労働省『労使協定のイメージ(令和9年度適用通達対応版)』別表3
中小企業退職金共済制度・企業年金等
中小企業退職金共済制度は、派遣会社が「中小企業退職金共済」に掛け金を支払い、派遣社員が退職時にお金を受け取れるようになる方法です。
「中小企業退職金共済」とは、国がサポートする公的退職金制度で、会社の代わりに従業員の退職金を積み立て・管理する仕組みです。
中小企業退職金共済制度の場合、退職理由(自己都合か会社都合か)によって退職金額は変わりません(懲戒解雇などで厚生労働大臣の認定を受けた場合を除く)。極端な例ですが、派遣会社が倒産したとしても退職金を受け取れます。
ただし、掛金を納めた期間が11ヶ月以下だと退職金は支給されません(通算制度等を除く)。12〜23ヶ月では納めた掛金の総額を下回り、24〜42ヶ月で掛金相当額となり、43ヶ月目から運用利息と付加退職金が加わります。
ただあくまで中小企業を対象とした制度なので、大手派遣会社を利用している場合は利用できません。また退職金の受け取りは、派遣社員本人が手続きを行う必要があります。なお(3)には、中退共のほかに確定給付企業年金・確定拠出年金などの企業年金への加入も含まれ、いずれも派遣会社が負担する掛金が一般退職金以上であることが条件です。中退共では、期間を定めて雇用される従業員や短時間労働者は、事業主が加入させなくてもよいとされています。登録型の有期雇用の派遣社員はこの対象に当たります。中退共を使うかどうかは、協定で確認してください。
計算方法【掛金月額と納付月数で決まる】
退職金は、掛金月額と掛金を納めた月数に応じて決まる基本退職金に、運用状況に応じた付加退職金を足した額です。
掛金は全額派遣会社の負担で、派遣社員が負担することはありません。派遣会社が納める掛金は、一般退職金(一般基本給・賞与等の5%)以上であることが求められます(令和9年度適用分)。中退共の掛金月額は、5,000〜30,000円の16種類(短時間労働者の特例は2,000〜4,000円)の定額から選びます。そのため、一般退職金に足りない分は、前払いの時給上乗せと合わせて補います。
具体的な金額は掛金月額と納付月数で決まるため、気になる方は『中小企業退職金共済事業本部』の退職金試算ツールを活用してください。試算できるのは基本退職金のみです。
派遣先企業の退職金制度
派遣先均等・均衡方式を採用している場合に限り、派遣先企業の制度に準じた退職金を受け取れます。
派遣先企業が大企業であれば高額の退職金をもらえることもありますが、退職金制度がない企業では一銭も受け取ることができません。
また退職金の支給資格として3年以上の勤務を設けている企業も多く、同じ派遣先の同じ部署で働けるのは原則3年までのため、この条件は満たしにくくなります。
計算方法【派遣先企業の規則に基づく】
計算方法や条件は、全て派遣先企業が定めるところとなります。
退職金の条件や計算方法は、派遣会社に説明を求めれば確認できます。派遣会社には説明義務があります。
ここまでのまとめ
退職金の支給制度は4通りあることがわかりました。
- (1).前払い制度
- (2).派遣会社独自の退職金制度
- (3).中小企業退職金共済制度・企業年金等
- (4).派遣先企業の退職金制度
この中で、退職金をあらかじめ時給に加算する前払い制度は、厚生労働省の令和7年度の集計(労使協定書269事業所)で、併用を含めて55.4%と最も多い方法です。
前払いの割合の国の基準は、令和8年度・令和9年度適用分とも一般的な賃金の5%です。大手派遣会社のスタッフサービスは労使協定をPDFで公開しているので、登録前に中身を確かめられます。
参考:スタッフサービス『労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定』
2026年10月1日以降、派遣会社にはインターネットなどでの情報提供の義務があります。対象は、労使協定を結んでいるか、協定の対象となる派遣社員の範囲、協定の有効期間の終期です。厚生労働省の「人材サービス総合サイト」への掲載も要請されています。退職金の方式や割合が見つからなければ、派遣会社に説明を求めましょう。派遣会社には説明義務があります。
大手派遣会社の退職金はどう支払われている?
公式サイトで退職金の受け取り方を確認できた派遣会社は2社で、どちらも時給に上乗せする前払いでした。調べたのは、アデコ、パソナ、スタッフサービス、ホットスタッフ、パーソルテンプスタッフ、フルキャスト、リクルートスタッフィング、ランスタッド、ヒューマンリソシア、マンパワーグループ、DSP、テクノ・サービスの12社です。公式サイトと公開資料を2026年9月30日に調べ、退職金の受け取り方が書かれていた会社を表にしています。
| 派遣会社 | 受け取り方 | 割合 | 公式サイトの記載 |
| アデコ | 前払い | 記載なし | 施行時(2020年)の解説で、一般労働者の平均的な賃金額に「退職金の前払い分」を加えたものを基準賃金とする |
| パソナ | 前払い | 記載なし | 基本給に「退職手当に相当する金額」を含めて支給する |
出典:アデコ『同一労働同一賃金で何が変わる?派遣社員向け解説』(2020年4月の施行時の解説)、パソナ『パソナがはじめての方、派遣会社がはじめての方へ』、アデコ『キャリアシード(無期雇用派遣)』(現行ページに「前払い退職金制度あり」)
パソナは上乗せの割合を公式サイトに書いておらず、アデコも上の出典のページには書いていません。前払いの割合は国の基準で5%以上なので、正確な上乗せ額は雇入れ時の書面や給与明細、担当者への確認で確かめます。
表に載せていない会社は、退職金の受け取り方を公式サイトの公開ページで確認できなかった会社です。スタッフサービスは労使協定をPDFで公開しているので、登録前に中身を確かめられます。ホットスタッフは求人ページの福利厚生に「退職金制度」と載せていますが、方式や支給条件は書いていません。パーソルテンプスタッフのよくある質問は「退職金の有無は就業条件・制度によって異なります」という回答です。
ランスタッドとヒューマンリソシアは、労使協定を結んでいることと協定の有効期間の終期(確認した事業所ではどちらも2027年3月31日)を公開しています。フルキャストは事業所ごとに協定の有無が異なり、リクルートスタッフィングは、協定の案内先が登録者向けのMyPage(ログインが必要)になっています。
参考:ホットスタッフ(求人ページ)、パーソルテンプスタッフ(よくあるご質問)、ランスタッド(労働者派遣事業の状況)、ランスタッド(同一労働同一賃金)、ヒューマンリソシア(労働者派遣事業の状況)、フルキャスト(首都圏営業課の情報公開)、リクルートスタッフィング(労使協定の案内ページ)
これから派遣会社を選ぶなら、登録の際に「退職金は前払いか、退職金制度か」と「無期雇用になった場合はどうなるか」を担当者に聞いておきましょう。時給に退職金が含まれているのか、勤続を重ねて退職時に受け取るのかを、求人ごとに比べられます。
スタッフサービスや、待遇を原則として労使協定方式で決めていると公表しているランスタッドに登録するときも、この2点を確かめてから仕事を選んでください。
4.待遇の説明時に退職金制度も確認しておこう
派遣法改正に伴い、派遣会社から派遣社員への説明義務が強化されました。(1).雇い入れ時と(2).派遣時の2つのタイミングで、「労働条件に関する事項」と「待遇格差是正のための措置」についての説明が求められます。
雇入れ時には、退職手当の有無を書面で明示することが義務になっています(本人が希望すればファクシミリや電子メールでも可)。派遣時も、派遣先均等・均衡方式の場合は退職手当の有無が明示されます。労使協定方式の場合、派遣時に明示されるのは2点のみです。労使協定の対象かどうか(対象なら協定の有効期間の終期)と、待遇の違いの内容・理由などについて説明を求められる旨です。
【派遣会社が書面で明示する事項(2026年10月1日以降)】
| 雇い入れ時 | 派遣時 |
|
|
※派遣時は、労使協定方式の場合、「労使協定の対象となる派遣社員であるか否か」と「説明を求めることができる旨」のみが明示事項です。
参考:厚生労働省『派遣労働者の《同一労働同一賃金》の概要(令和8年10月1日改正対応版)』
「説明された覚えがない」という方は、雇入れ時に受け取った労働条件の書面(またはメール)を確認してみてください。
また派遣会社には、派遣社員から待遇決定に関する事柄について質問があった場合に説明する義務があります。疑問点や納得のいかない箇所がある場合は、積極的に派遣会社の担当者に聞いてみましょう。
5.派遣の退職金に関するよくある質問
派遣の退職金について、勤続何年から出るか、5年・10年でいくらになるか、いつ支払われるか、6%と5%のどちらが正しいかに答えます。無期雇用派遣ではどうなるか、ホットスタッフの退職金はいくらかにも答えます。答えは、ここまでの制度の説明と厚生労働省の基準に沿っています。
派遣の退職金は何年働けばもらえる?
前払いなら働き始めた月から、退職金制度なら派遣会社が協定で決めた最低勤続年数から、中退共なら掛金を12ヶ月以上納めてからもらえます。前払いは時給に含まれているので、勤続年数の条件はありません。派遣先均等・均衡方式の場合は、派遣先の社員の退職金規程で決めた勤続年数から支給され、派遣先に退職金制度がなければ支給されません。
退職金制度の最低勤続年数は、国が労使協定のイメージ(別表3)で示す水準が3年で、協定ではこれ以下の年数にしなければなりません。中退共は掛金の納付が11ヶ月以下だと支給されず、24ヶ月未満では納めた掛金の総額を下回ります。
派遣の退職金は5年・10年でいくら?
前払いの場合、時給1,200円を国の示す一般的な賃金とみなした概算で、フルタイムで5年働くと約58万円、10年で約115万円です。この額は毎月の給与で受け取り済みの合計です。
退職金制度の場合は、基本給20万円で自己都合なら5年22万円以上、10年50万円以上が、国が労使協定のイメージ(別表3)で示す水準から出る最低ラインです。時給・基本給・勤続年数ごとの額は、前払い制度と派遣会社独自の退職金制度の項の表で確認できます。
派遣の退職金はいつ支払われる?
前払いは毎月の給与と一緒に、中退共は本人が請求して中退共から直接、退職金制度は派遣会社の就業規則で決めた時期に支払われます。派遣先均等・均衡方式の場合は、派遣先の社員の退職金規程に準じた時期です。
常時10人以上を雇う会社が退職手当を定めるときは、支払の時期を就業規則に書くことが労働基準法第89条で義務づけられています。退職金制度の派遣会社で働いているなら、就業規則(退職金規程)の支払時期の欄を確認してください。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』第89条、中小企業退職金共済事業本部(よくある質問 5-3-2)
派遣の退職金は時給の6%ではないの?
いまの国の基準は5%で、6%は2019年に厚生労働省がマニュアルで示した当時の値です。6%は2018年の審議会で示された水準で、令和8年度(2026年度)と令和9年度(2027年度)に適用される局長通達では、一般の賃金に掛ける割合は5%です。
5%は下限なので、派遣会社が協定で5%を超える割合を定めることはできます。自分の会社の割合は、雇入れ時の書面や労使協定で確かめます。
出典:厚生労働省『不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル』、厚生労働省(職発0828第5号)
無期雇用派遣の退職金はどうなる?
無期雇用派遣の退職金は、無期雇用の派遣社員について派遣会社が協定で定めた方式で決まり、登録型の派遣と同じ方式とは限りません。局長通達では、前払い・退職金制度・中退共などの方式を、派遣社員の区分ごとに使い分けることが認められています。
無期雇用派遣は同じ派遣会社との雇用が続くので、勤続年数が条件になる退職金制度でも勤続を積み上げられます。同じ派遣先の同じ部署で働ける期間の3年の上限も、派遣会社に無期雇用されている人には適用されません。
自分の区分がどの方式かは、労働条件の書面の「退職手当の有無」の欄と、派遣会社の就業規則で確認できます。
出典:厚生労働省(職発0828第5号)、厚生労働省『派遣先の皆様へ』
ホットスタッフの退職金はいくら?
ホットスタッフの公式サイトのよくある質問や求人ページには、退職金の方式や金額が書かれていません(2026年9月30日確認)。求人ページには福利厚生として「退職金制度」が載り、「派遣スタッフと正社員の違い」のページでは退職金の支給を「状況に応じて支給される」と説明しています。
金額を知るには、雇入れ時の労働条件の書面で退職手当の欄を確かめます。前払いなら時給別の早見表で、退職金制度なら基本給と勤続年数の表で、おおよその額をつかめます。
まとめ
派遣の退職金について解説しました。
派遣法改正によって、派遣会社は派遣社員の退職金(相当額)を不合理な差がないように確保する義務を負うようになりました。ただし、受け取り方や細かい条件は派遣会社が結ぶ労使協定で決まります。
退職金の支給制度は4通りあります。厚生労働省の令和7年度の集計では、退職金をあらかじめ時給に加算する前払い制度(積立との併用を含む)が55.4%で最も多くなっています。
- (1).前払い制度
- (2).派遣会社独自の退職金制度
- (3).中小企業退職金共済制度・企業年金等
- (4).派遣先企業の退職金制度
派遣登録の際は、派遣会社がどの制度を採用しているかを確認しておきましょう。営業担当者に確認を取れば、具体的に説明してもらえるはずです。
これから派遣会社に登録する人は、面談の段階で退職金の方式を聞いておけば、仕事を選ぶ前に受け取り方が分かります。スタッフサービスに登録するときも、最初に確かめておきましょう。
なお、以下の記事では派遣法改正に伴う制度変更について解説しているので、気になる方は参考にしてください。
関連記事
≫派遣の同一労働同一賃金とは?派遣社員への影響やメリットを詳しく解説
≫派遣法改正をわかりやすく解説!改正による影響や対応内容も伝授
あなたにとって、この記事が参考になれば幸いです。
現役の転職コンサルタント集団。大手人材会社に在籍しているメンバーが多いため、執筆内容に制約がかからないように『匿名性』とし、裏事情やノウハウを包み隠さずにご紹介しています。




