「派遣法改正の同一労働同一賃金とはいったい何なのだろう」「派遣社員である自分にどんな影響があるのか分からない」と考えていませんか?
同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をする社員に対しては、雇用形態に関わらず、同額の賃金を支給する」という考え方です。
同一労働同一賃金が実現することで、正規労働者と非正規労働者の間にある格差の解消につながると期待されています。
この記事では、派遣のプロである私が、同一労働同一賃金の考え方や仕組みを詳しく解説していきます。
- 同一労働同一賃金とは「仕事内容が同じであれば、給料・待遇も同じ」という考え方
- 同一労働同一賃金が収入・お金に与える影響
- 今回の派遣法改正が派遣社員にもたらすメリット
- 同一労働同一賃金が派遣社員にもたらすデメリット
- 同一労働同一賃金の詳しい仕組み
すべて読めば、同一労働同一賃金が、派遣社員にどのような影響をもたらすのか、理解することができるでしょう。
目次
1. 同一労働同一賃金とは「仕事内容が同じであれば、給料・待遇も同じ」という考え方
同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をする社員」は雇用形態に関わらず「同一の賃金を支給する」という考え方です。
この考え方を実現するため、2020年4月に改正労働者派遣法が施行され、大企業では2020年11月から、中小企業では2021年4月から施策が適用されはじめました。
施策適用の対象となるのは、「派遣社員」「パートタイム労働者」「有期雇用労働者」です。
補足:労働者派遣法とは
労働者派遣事業を安定的に運営していくこと、派遣社員の権利を守ることを目的とした法律です。
労働市場の状況や社会的な背景に応じて、改正が重ねられており、2020年より施行される改正労働派遣法は、『同一労働同一賃金』を実現するためのものであると考えられます。
1-1. 同一労働同一賃金の目的
同一労働同一賃金は、非正規労働者と正規労働者の格差を減らすことを目的とした考え方です。
非正規労働者と正規労働者の格差は依然として大きく、派遣社員は正社員よりも賃金が低く設定されていたり、ボーナスの支給がなかったりなど、福利厚生の面でもデメリットがあります。
このような格差を改善するために、同一労働同一賃金の実現が進められているのです。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)間にある不合理な待遇差の解消を目指すものです。
出典:厚生労働省
同一労働同一賃金はこれまでも「努力義務」として存在していた
同一労働同一賃金の考え方は実は以前から存在しており、待遇や賃金格差の是正は従来の派遣法でも明記されていましたが、「努力義務」という位置づけとなっていました。
あくまで「同一労働同一賃金の実現に努めましょう」というもので、強制力を伴ってはいなかったのです。
しかし、正社員と派遣労働者の格差は一向に縮まっていません。さらに非正規労働者の数は年々増加の一途を辿るなど、深刻な社会問題となっています。
そこで2020年の改正派遣法では、格差の是正について、「通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。」とより強い表現が用いられることとなりました。
労働者派遣法第30条の3第2項(法改正後)
派遣元事業主は、派遣労働者であって(中略)通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。出典:厚生労働省
加えて改正派遣法では、「不合理な待遇の禁止等に違反」などを行った事業者に対する罰則も新たに定められています。
2. 同一労働同一賃金が収入・お金に与える影響
同一労働同一賃金はあくまで考え方に過ぎないので、具体的にどのような対応を取るかは派遣会社やパート先企業次第ですが、以下の4つの項目で金額の見直しが行われます。
なお派遣社員の場合、2020年4月以降から交通費の支給を行っていることが多いようです。
改正派遣法によって、自らの収入にどのような影響があるのか、詳しく理解しておきましょう。
2-1. 賃金・時給
同一労働同一賃金の最大のメリットは、賃金アップが期待できる点にあります。
雇用形態に関わらず、業務内容が同じであれば正社員と同額の賃金が支給されるのです。
自分の働きに見合った給料を得られるようになるため、仕事へのモチベーションも高まるでしょう。
ただここで重要なのが「正社員と業務内容が全く同じ場合に限る」ということです。仕事内容や責任の重さが違う場合は、同一労働同一賃金の対象にはなりません。
2-2. ボーナス・賞与
業務内容や会社への貢献度が同一である場合に限り、派遣社員でも正社員と同様にボーナスを支給することが求められます。
ただし、ボーナスに関しては正規雇用者と同額でなければならないといった規定はありません。
年収単位で考えると、必ずしも正社員と同じ収入を手にできるわけではないので注意が必要です。
2-3. 交通費・各種手当
交通費が正社員のみ支給され、非正規労働者には支給されていないといった差がある場合、派遣社員にへの交通費も支給が求められます。
業務内容が同一の場合、交通費だけに限らず皆勤手当てや家族手当なども不合理な差の是正が求められます。
2-4. 退職金
派遣社員に退職金が支給されるケースはこれまでほとんどありませんでした。
しかし、不合理な待遇差を解消するという観点から、改正派遣法によって派遣社員でも退職金をもらうことができるようになります。
退職金の支給は原則として、勤続3年以上の派遣労働者が対象です。(参照:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル)
派遣社員が退職金を受け取るには、主に3つの方法があります。
方法1. 退職時に受け取る
正社員と同様、退職時に受け取る方法です。受取額は、勤続年数に応じて増える仕組みとなっています。
方法2. 時給に加算する
退職金を時給に加算する方法です。
退職金は時給の6%を加算するものと設定されています。退職金を前もって受け取ると考えると分かりやすいでしょう。
方法3. 中小企業退職金共済制度に加入する
事業主が毎月掛金を納付し、退職時に従業員が退職金を受け取る仕組みです。金額は納付した月数と掛金によって決定されます。
3. 今回の派遣法改正が派遣社員にもたらすメリット
2020年の派遣法改正は、派遣社員に以下のようなメリットをもたらします。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
3-1. 仕事が公正に評価されるようになる
同一労働同一賃金の実現によって、自身の仕事が公正に評価されるようになります。
これまでは、たとえ正社員とまったく同じ仕事をしていたとしても、雇用形態の違いから、給与や待遇の面で違いが出るのは仕方がないことでした。
これに対して、同一労働同一賃金が実現することで公正な評価が下されるようになり、その対価を給料や福利厚生という形で受け取ることができるようになります。
3-2. キャリアアップにつながる
すべての待遇が就業先と均等になった場合、給与や手当に加えて、研修や教育訓練の機会なども受けることができるようになります。
派遣社員の研修は本来、雇用主である派遣会社が行うべきものですが、就業先によって求められるスキルが異なるため、研修は派遣先企業に任されているという状況でした。
しかし研修の実施は義務ではないため、充分な研修が行われないことの方が一般的だったようです。
今回の改正派遣法では、正社員と同様の研修を受けられるようにするのは、企業側の義務となります。
これにより、キャリアアップにつながる経験を得ることもできるでしょう。
3-3. 働き方の選択肢が広がる
家庭の事情などから、週5日フルタイムで働くことが難しいという方も少なくありません。
例えば子育てをしながらフルタイムの仕事をする場合、体力的な負担は大きくなりますが、収入面を考慮すると非正規雇用を選択するのもそう簡単ではありません。
金銭的な問題がネックとなり、柔軟な働き方を選択できない方も多いのではないでしょうか。
同一労働同一賃金の実現によって、このような非正規雇用の金銭面におけるデメリットは、少しずつ解消されていくと期待されています。
結果として「派遣社員として週3日程度働く」など、働き方の選択肢が広がっていくでしょう。
自身の事情あわせた雇用形態で働ける可能性も高くなります。
3-4. 福利厚生が充実する
改正派遣法によって、お金の面だけでなく、福利厚生の差も解消される運びとなります。
中でも、「福利厚生施設を正社員と同様に使用することが義務付けられた」ことは大きな変更点です。
福利厚生施設とは、食堂や休憩室、更衣室など、業務をスムーズに進めるために設置されている施設を指します。
現行法でも利用は認められており、多くの企業では派遣社員でも利用できているかと思われますが、改正派遣法によりこれらの利用は義務として定められました。
3-5. 不明確だった情報を知ることができる
賃金や福利厚生については、従来の派遣法でも「雇用時に説明しなければならない」と定められています。
ただし、待遇差に関しての詳しい説明の義務はなかったため、不満を抱きながら仕事をする派遣社員も少なくありませんでした。
しかし今回の改正派遣法では、「待遇差の内容や理由についての説明の義務」が新たに追加されました。
待遇差に疑問が生じた場合など、派遣社員は事業者に対して、説明を求める権利を得られるようになったのです。
事業者は非正規労働者から説明を求められた場合、説明を行わなければなりません。なお、説明を求められたことによって、事業主が従業員に対し不当な扱いをすること(減給や契約を更新しないなど)は禁じられています。
4. 同一労働同一賃金が派遣社員にもたらすデメリット
同一労働同一賃金のデメリットとしては、「派遣を受け入れる企業が減る可能性がある」と考えられます。
社員へ支払う給与が同一になれば、その分企業の人件費負担も増大するからです。
人件費の削減を目的としている企業にとって、派遣社員を受け入れるメリットは少なくなるでしょう。
その結果、企業が派遣社員の数を調整したり、受け入れを縮小したりすることも充分考えられます。
このような背景から、改正派遣法によって、派遣社員の新規雇用を縮小する動きも想定されることを理解しておきましょう。
補足:待遇が必ずしも改善されるわけではない
同一労働同一賃金は、派遣社員の待遇を改善する考え方です。
ただしこれには「正社員と同一の仕事」という前提条件があります。
仕事内容などによっては、待遇の改善が期待できないケースも考えられるのです。
5. 同一労働同一賃金の詳しい仕組み
同一労働同一賃金の仕組みを実現するためには、主に「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つの方式が定められています。
これらは派遣社員の給与を決定する考え方です。このうちいずれかを派遣会社が選択し、スタッフの待遇改善を検討していくことになります。
それでは、それぞれの方式の特徴を見ていきましょう。
5-1. 派遣先均等・均衡方式
「派遣先均等・均衡方式」は、就業先の社員にあわせて派遣社員の待遇を決定する方式です。
派遣スタッフは、同一の職場で同一の仕事をする就業先の社員を基準として、その人たちと同じ給与・待遇を受けられるようになります。
スタッフの給与を決定するために、派遣会社はスタッフの就業先企業に「比較対象労働者の職務の内容」などの情報を求めます。派遣社員が何か特別な手続きを行うことはありません。
5-2. 労使協定方式
「労使協定方式」は、派遣会社と労働組合との間で労使協定を締結することで派遣スタッフの待遇を決める方式です。
労使協定では、「同じ地域で働く同じ職種の正社員の平均以上の賃金にする」ように設定され、毎年6月~7月に発表される各職種の平均賃金をベースとして、派遣会社が派遣スタッフの賃金を決定します。
前述の「派遣先均等・均衡方式」の場合、待遇は基本的に就業先企業に左右されるため、頻繁に就業先が変わる派遣社員にとっては、給与の変動が発生するなどのデメリットが考えられます。
しかし、派遣会社と派遣スタッフの従業員(代表者、または過半数労働組合)との間であらかじめ協定を結んでおくことで、派遣社員は安定した給与を得ることができるようになるのです。
6. 最後に
同一労働同一賃金の考え方について、詳しく解説しました。
収入や待遇がどう変わるのか、具体的な部分は派遣会社の対応によって左右されます。
もし疑問点があれば、派遣会社の担当者に問い合わせてみるとよいでしょう。
あなたにとって、この記事が参考になれば幸いです。
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