「会社を辞めたいけど、退職手続きの手順が分からない」と悩んでいる人は多いでしょう。
この記事では、退職届の書き方を含めた、退職の手順(退職計画~最終出勤日)を解説しています。
また、退職届には「一身上の都合により」と書くのがならわしですが、「自分の都合だなんて絶対に書きたくない!」と内心おだやかではない人のために、ケース別の解決手順も紹介しています。
証拠収集が必要なケースもあるため、退職届・退職願を提出する前に読んで、後悔のない退職を実現しましょう。
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目次
1. 退職届と退職願の違い
「退職届」と「退職願」は、提出するタイミングによって使い分けます。
また、この他にも「辞職」「辞表」「辞職願」などの紛らわしい言葉があり、どれを使うべきか悩んでしまうかもしれません。
この章では、退職に関連する言葉の違いをまとめて解説します。
それぞれの意味や使い分けを把握して、退職の準備を始めましょう。
1-1. 退職・辞職・辞任・退任の違い
退職・辞職・辞任・退任はどれも、職場や役職を辞めることを指す言葉ですが、次のように使い分けます。多くの人は「退職」を使いますが、会社役員や公務員の人は注意しましょう。
↓表はスクロールできます
退職 | 自分の意志で職場を去ること。 |
辞職 | 自分の意志で職場を去ること。 会社役員や公務員など、任命されて職に就いている人に使用する言葉。 一般的な労働者は採用されて職に就いているため、退職を使う。 |
辞任 | 自分の意志で役職を降りること。 役職を降りるだけで、職場から去るわけではない。 〔例〕内閣総理大臣を降りても国会議員を続ける場合は辞任、国会議員そのものをやめる場合は辞職。 |
退任 | 自分の意志に限らず役職を降りること(任期の満了など)。 |
1-2. 退職届・辞表・退職願・辞職願の違い
退職届・辞表・退職願・辞職願はどれも、退職のときに提出する書類を指す言葉ですが、「提出する人」と「提出するとき」で次のように使い分けます。
書類 | 提出する人 | 提出するとき |
---|---|---|
退職届 | 会社員 | 退職が確定したとき |
辞表 | 会社役員 公務員 |
|
退職願 | 会社員 | 退職を願い出るとき |
辞職願 | 会社役員 公務員 |
なお、退職を口頭で願い出る場合、退職願(辞職願)は必須ではありません。ただし、退職の意思表示をした証拠になるため、特に交渉が難航しそうな場合などには提出することをおすすめします。
2. 退職届・退職願の書き方(テンプレートあり)
実際に退職届・退職願を作成していきましょう。
ここで紹介する手順どおりに作成すれば、ビジネスマナーに従った退職届・退職願が完成します。
なお、正社員に限らず、パートやアルバイトでも作成方法や書き方は同じです。
2-1. 紙やペンを用意する
退職届・退職願を作成するために、用紙・筆記用具・封筒を用意しましょう。
用紙
用紙は、B5サイズかA4サイズの、白無地のものを用意しましょう。
退職届・退職願をパソコンで作成する場合はコピー用紙で十分ですが、手書きで作成する場合は、文字が透けてしまうような薄いコピー用紙では格好がつかないため、ビジネス向けのシンプルな便箋を用意しましょう。
退職届・退職願は手書き?パソコン?
退職届・退職願は、手書き、パソコン、どちらで作成してもビジネスマナー上の問題はありません。
手書きの方が誠意が伝わるという考え方もありますが、上手ではない字の手書きより、パソコンで作った体裁が整っているものの方が印象がよい場合もあるでしょう。
職場に特別なルールや慣習でもない限り、作りやすい方を選んでOKです。
筆記用具(ペン)
ペンは、ボールペンか万年筆(インクの色は黒)を用意しましょう。
油性でも水性でも構いませんが、消せるボールペンはNGです。社会人の常識として、退職届はもちろん、職場に提出する正式な書類は消せるボールペンで書かないよう心得てください。
「そう簡単には消えないでしょ?」と思うかもしれませんが、消せるボールペンのインクは熱によって透明になるため、例えば、パソコンの近くに置いておくだけでも文字が読めなくなってしまう可能性があります。
封筒
封筒は、用紙のサイズに合わせた白無地のものを用意しましょう。
- 用紙がB5の場合、封筒は長形4号(90 × 205mm)
- 用紙がA4の場合、封筒は長形3号(120 × 235mm)
郵便番号を記入する枠があるものは避け、できれば、中身が透けないように紫の紙などで二重構造になっているものが好ましいです。
また、退職届・退職願を手渡しする場合は封をしないため、のり付き封筒(フタ部分にのりや両面テープが付いているもの)は避けましょう。
2-2. 退職届・退職願を書く
退職届・退職願を書きましょう。
なお、下記テンプレートをクリックすると、見本と同じものをダウンロードできます。パソコンで作成する場合はご活用ください。
※Word以外で開くと体裁が崩れる場合があります。下記「退職届・退職願を書くときのポイント」を参考に修正してください。
退職届・退職願の見本
見本を開いて、次項の「退職届・退職願を書くときのポイント」に進んでください。
退職届・退職願を書くときのポイント
見本の番号ごとにポイントを解説していますので、順番に記入していきましょう。
手書きで書き間違いなどをしてしまった場合、修正テープや修正ペンは使用せずに、新たに書き直しましょう。
①タイトル
「退職届」「退職願」「辞表」「辞職願」など、状況に合ったものを記入します。
位置は、縦方向の中央ではなく、やや上方に寄せると見栄えがよくなります。
②書き出し
「私儀」または「私事」と記入します。
私儀(わたくしぎ)も私事(わたくしごと)も、「わたくしごとではありますが…」という意味です。
③退職理由
自己都合で退職する場合:
退職理由の詳細を書く必要はありません。「一身上の都合により」と記入します。
会社都合で退職する場合:
前提として、自主的に退職届を提出する必要はありません。会社などから提出を求められた場合に提出しましょう。
また、提出する場合、「一身上の都合により」とは記入せず、「部門縮小のため」「事業所閉鎖のため」などの理由を具体的に書きましょう。
〔会社都合での退職に納得がいかない人は、5-1. 会社都合による解雇も参考にしてください〕
④退職日(退職希望日)
退職願(辞職願)の場合:
「退職(辞職)希望日」を記入します。
なお、職場によっては「退職は2か月前に申し出なければならない」のように期間が定められている場合があるため、事前に就業規則を確認しましょう。
〔就業規則の確認方法については後述しますので順番に読み進めてください。急いで読みたい人は、就業規則を確認するにジャンプしてください〕
退職届(辞表)の場合:
「確定した退職(辞職)日」を記入します。
なお、年は西暦でも和暦でも構いませんが、どちらかと言えば、和暦が一般的です。
西暦は、漢数字を並べるだけです。
例えば「2023年」は次のように縦書きします。
二〇二二年
二千二十二年
和暦は、漢数字の「十」を挿入します。
例えば「令和12年11月28日」は次のように縦書きします。
令和十二年十一月二十八日
令和一二年一一月二八日
また、和暦においては、漢数字の〇(ゼロ)は使用しないようにしましょう。
例えば「令和10年3月20日」は次のように縦書きします。
令和十年三月二十日
令和一〇年三月二〇日
⑤届出内容
「退職」「辞職」「辞任」など、状況に合ったものを記入します。
⑥文末
退職願(辞職願)の場合:
退職願(辞職願)は、退職を願い出る性質ですので、「~お願い申し上げます」と締めます。
退職届(辞表)の場合:
退職届(辞表)は、退職が確定したとき(後)に提出する性質ですので、「~いたします」と締めます。
⑦届出日
「届け出る(提出する)日」を記入します。
年は西暦でも和暦でも構いませんが、「退職日(退職希望日)」で選択した表記と合わせましょう。
⑧署名捺印
届出日時点での「部署名」と「氏名」を記入し、押印します。
なお、押印は必須ではありませんが、本人が提出した証拠になるため、特にパソコンで作成する場合は必須と捉えましょう。
手書きで作成し署名(自筆で記入)した場合も、差し戻しなどの余計な手間を省くために、最初から捺印しておくことをおすすめします。
⑨宛名
「職場(会社)の正式名称」と「代表者の役職」、「代表者の氏名」を記入し、敬称は「様」とします(「殿」は目下の人に使う敬称なので注意してください)。
位置は、自分の所属や氏名より上方になるようにしましょう。
2-3. 封筒にタイトルや氏名を書く
次に、退職届・退職願を入れる封筒を作成しましょう。
見本のとおり、表面に「退職届」「退職願」「辞表」「辞職願」などのタイトル、裏面に届出日時点での「部署名」と「氏名」を記入します。
2-4. 退職届・退職願を折り、封筒に入れる
最後に、作成した退職届・退職願を折り、封筒に入れましょう。
退職届・退職願を折る
退職届・退職願は三つ折りにします。
見本のとおり、①三等分になるよう測り、②下部を折り、③上部を折ります。
(A4の場合は9.9cmずつ、B5の場合は約8.56cmずつで三等分になります)
↓画像はスクロールできます
※画像の●印は封筒に入れるときの目印です。ここでは無視してください。
退職届・退職願いを封筒に入れる
三つ折りにした退職届・退職願を封筒に入れます。見本のとおり、●印が、封筒裏面の右上にくるように入れると、スムーズに読み始めることができます。
なお、手渡しの場合、のり付けや、「〆」「封」などの封印は不要です。
【参考】パートやアルバイトでも退職届・退職願は必要?
「パートでも退職届を書いた方がよいの?」「アルバイトだから退職届はいらないよね?」など、雇用形態によっては退職届を提出すべきか悩んでしまうかもしれません。
そもそも、正社員であっても、退職届の提出が法律などで定められているわけではありません。
しかし、正社員はもちろん、パートやアルバイトであっても、退職届・退職願は提出することをおすすめします。
なぜなら、口頭のように形に残らないもので意思表示をした場合、行き違いや、もみ消し、水掛け論を招く危険があるからです。
口頭でやり取りしたために行き違いが発生し、裁判となった事例もあります。
少し笑える裁判例
会社が口頭で退職を勧告したところ、カナダ人である労働者が「グッド・アイデアだ」と答えたため、会社は退職の手続きをした。
しかし、「グッド・アイデアだ」という発言の真意は、退職を承諾するものではなく、むしろ、半ば呆れて、皮肉を込めたものであった。
結果、双方の意思表示に合致はなかったとして、雇用契約の終了は無効の判決が言い渡された。(株式会社朋栄事件 東京地判平9.2.4 労判713-62)
この判例は極端かもしれませんが、上司がなかなか話を聞いてくれない、話をはぐらかされる、いつまで経っても退職手続きが進まないなどの状況に陥る可能性は十分にあります。
自分の身を守るためにも、書面として形に残り、意思表示をしたという証拠にもなる退職届・退職願は提出することをおすすめしています。
3. 一般的な退職の手順
退職はその後の人生に大きな影響を与えるライフイベントですから、退職届・退職願を勢いに任せて提出することは得策とは言えません。
計画どおりの円満退職を実現するためには、下の表を参考に退職希望日の4か月くらい前から準備を始めると、精神的にゆとりを持って進めることができます。
※各手順の具体的なアクションは次項から解説します。
-
手順1
-
手順2
-
手順3
-
手順4
-
手順5
4か月前|退職の計画を立てる
退職の意思表示をする前に、自分の考えを整理し、職場の退職ルールを調査し、家族の了承を得るようにしましょう。
自分の考えや進路を整理する
「仕事を辞めたい」という考えが1度でも頭をよぎると、退職したい気持ちが加速し、適切な判断ができなくなってしまうことがあります。
自分の考えや進路を整理しないまま勢いで退職してしまうと、「辞めなければよかった…」「生活費が厳しい…」と後悔することになります。
本当に退職しますか? 退職の意思表示をする前に、「なぜ退職したいのか?」を自問するようにしましょう。
退職しなくても、部署異動などで解決できるかもしれません。人によっては、退職したい理由を整理するだけでスッキリするケースもあります。
また、意志が固まっていても、次の就職先が決まっていない場合は、より一層慎重にならなければなりません。
厚生労働省の調査によれば、退職してから次の職場で就職するまでの離職期間は、退職者の約54%が1か月未満、約80%が4か月未満となっています(厚生労働省:令和2年転職者実態調査,2021.)。
一概に比較参照できるものではありませんが、のっぴきならない状況でもない限り、ブランクなく、定期的な収入を保てるように計画しましょう。
就業規則を確認する
就業規則を確認せずに退職アクションを起こすと、退職届・退職願が受理されない、有給休暇を取得し損ねる、退職金や未払い賃金が支払われなくても気づかない、などの事態を引き起こしてしまうかもしれません。
就業規則とは?
就業規則とは、労働者と使用者(会社)の約束事をまとめたルールブックです。
労働時間や賃金などの労働条件の他に、服務規律(会社で順守すべきルール)や退職の手順など、トラブルになりがちな内容が記載されています。
なお、就業規則は規則類の総称なので、次のような規定に分割して作成されている場合もあります。このうち、退職に関する内容は、「就業規則」「賃金規定」「退職金規定」で確認できます。
就業規則の分割例
就業規則/賃金規定/退職金規定/慶弔見舞金規定/旅費規程/育児休業規定/介護休業規定/(その他の規定)
※この記事では、まとめて「就業規則」と表記しています。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用(雇用)している職場では作成が義務付けられています。
これを作成義務と言いますが、労働者の基礎知識として、就業規則の三大義務(作成義務・届出義務・周知義務)を説明します。
1. 作成義務
- 常時10人以上の労働者を使用(雇用)している使用者は就業規則を作成しなければならない(労働基準法第89条)。
- 労働者は事業所ごとにカウントする。
〔例〕労働者が10人以上の店舗Aには作成義務があり、10人未満の店舗Bには作成義務がない。 - 労働者にはパートやアルバイトも含み、シフトインしている人数ではなく、日常的にシフトインするすべての労働者をカウントする。
- 労働者が10人未満の事業所においても、作成してはいけないわけではない。
2. 届出義務
- 作成した就業規則は、所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。
3. 周知義務
- 作成された就業規則は、労働者に周知されなければならない(労働基準法第106条第1項)。
- 周知方法は、労働者1人1人に配布する必要はなく、書面を棚に保管しておく、データをパソコン(ネットワーク上)に保管しておくなど、労働者の希望に応じて閲覧できる方法ならOK(労働基準法施行規則第52条の2、平成11.1.29基発第45号)。
退職の規則を確認する
職場によっては「退職は2か月前に申し出なければならない」のように期間が定められている場合があります。
一方、法律では「退職(雇用契約の解約)の申し入れから2週間を経過することによって、雇用契約は終了する」と定められています。
どちらが優先されるかは一概には言えませんが、原則、法律で定められた権利が極度に制限される就業規則は無効ですので、2週間前の申出によって退職できることになります。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
〔出典〕民法第627条第1項
ただし、業務の引き継ぎなどを考慮すれば、2週間前の申し入れというのは現実的ではありません。
労働者の退職の自由を否定するものではありませんが、円満退職をするためにも、就業規則などに定められた期間を持った方がよいでしょう。
また、派遣社員など期間の定めがある雇用(有期雇用)の場合、基本的には契約期間が満了するタイミングで退職した方が無難です。
有給休暇の規則を確認する
有給休暇は、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、法律で定められた労働者の権利です。
就業規則に有給休暇に関する規則が定められていない場合でも、労働者はこの権利を行使することができます。「うちの会社は有給休暇制度がないから」という説明を鵜呑みにしてはいけません。
なお、付与される日数の最低基準も法律に定められています。
就業規則に記載されている内容がこれを下回っている場合、当然に法律の内容が優先されます。
また、パートやアルバイトには有給休暇がないと誤解している人もいますが、雇用形態に関係なく有給休暇は付与されます(付与される日数は所定労働時間に比例)。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
〔出典〕労働基準法第39条第1項
雇用形態別の付与日数については、下の「付与日数表/フルタイム」「付与日数表/フルタイム以外」を参考にしてください。
一般的なフルタイムの労働者に適用されます。
- 週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者。
- または、1年間の所定労働日数が217日以上の労働者。
雇入れの日から起算した勤続期間 | 付与される有給休暇の日数 |
---|---|
6か月 | 10労働日 |
1年6か月 | 11労働日 |
2年6か月 | 12労働日 |
3年6か月 | 14労働日 |
4年6か月 | 16労働日 |
5年6か月 | 18労働日 |
6年6か月以上 | 20労働日 |
パートやアルバイトなど、労働日数や時間が少ない労働者に適用されます。
- 週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下の労働者。
- または、1年間の所定労働日数が48日~216日までの労働者。
↓表はスクロールできます
週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 雇入れの日から起算した継続勤務期間(単位:年) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
4日 | 169~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
2日 | 73~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
1日 | 48~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
退職金や賞与、賃金の規則を確認する
退職金や賞与についての法律(義務)はないため、基本的には、就業規則に記載されている内容がすべてです。
記載(制度)がある場合、適用される労働者の範囲、計算方法、支払いの時期を確認しましょう。
勢いで退職してしまうと、次の例のように数十万単位で損をしてしまうかもしれません。
- 「勤続3年未満の者には退職金を支給しない」と記載されているのに、2年11か月で退職してしまった。
- 「賞与は毎年6月と12月に支給する」と記載されているのに、5月に退職してしまった。
また、「支払われていない賃金(例えば未払い残業代など)があるかもしれない」と疑っている場合には、給与の計算方法などを確認しましょう。
未払い残業代請求においては、就業規則(賃金規定)やタイムカードが最重要の証拠になるため、退職前にコピーを取るなどの工夫が必要です(詳しくは「5-6. 残業代が支払われないまま退職する場合」で解説しています)。
家族の了承を得る
退職(転職)アクションを起こす前に、家族の了承を得ることも忘れてはいけません。
特に、配偶者や子どもがいる場合、家族の理解や協力は不可欠です。
退職(転職)することで家族に大きな影響を与えるケースもありますし、結果的にこれらを回避したとしても、「家族のことを考えていない」という不信感を招き、家族不和を引き起こすこともあります。
退職は、あなた自身だけでなく、家族の人生にも大きな影響を与えるライフイベントであると心得てください。
退職(転職)が家族に与える影響の例
- 勤務地が変わる
→引っ越しや転校が必要になるかもしれない。 - 労働時間(休日)が変わる
→生活サイクルが変わる(食事の時間、子どもの送迎や土日の面倒など)。 - 給与が変わる(一時的にでも下がる)
→生活水準が変わり、配偶者の転職につながるかもしれない。 - 将来性が変わる
→生活費を削り、毎月の貯蓄額を増やさなければならないかもしれない。
3か月前|退職願を提出
引き継ぎ内容を整理して、退職願を提出しましょう。
引き継ぎ内容をまとめる
退職にあたって、引き継がなければならない内容をまとめましょう。
引き継ぎ内容のまとめは、退職願を提出する前に完了させておくことをおすすめします。
引き継ぎ内容を事前にまとめる理由
- 退職希望日や有給消化のスケジュールが現実的か?の自己判断ができる。
- 退職願を提出するとき、上司に安心感を与え、退職しやすくなる。
- 事前に(焦らず)整理することで抜け漏れがなくなる。
退職願を提出する
退職願を提出しましょう。
突然人事部長を訪ね、退職願をポンと置くようなことをする人はいないと思いますが、適切な相手、時間、場所をわきまえて提出します。
提出する相手
退職願を提出する相手は直属の上司です。
どうしても提出しづらい状況(ハラスメントを受けているなどの場合)を除いては、直属の上司を飛び越えて、さらに上の役職者や人事担当者などに提出するのはマナー違反です。
提出する場所
あらかじめ上司にアポイントを取り、周囲に人がいない環境で、退職願を提出しながら意思表示をします。
その他
有給休暇を消化する予定がある場合、整理した引き継ぎ内容を含め、この場でスケジュールを伝えましょう。
「引き継ぎの状況によって…」など曖昧なままにしておくと、結局、消化しきれずに退職日を迎えることになりかねません。
退職日を確定する
退職願を提出したからといって、退職(退職日)が確定するわけではありません。
場合によっては、役職者や人事担当者との面談(理由や意思の確認)や、有給休暇の消化スケジュール調整を求められます。
それらを経て、退職が、決裁者(社長、役員、人事部長など)に承諾された時点で退職(退職日)が確定します。
退職願は撤回できる?
退職願は撤回できません。決裁者に承諾される前であれば撤回できる場合もありますが、そもそも「撤回したい」と思い直すようなことがないように、しっかりと気持ちの整理や計画を立ててから申し入れしましょう。
2か月前|退職届を提出
退職届を提出して、業務の引き継ぎをしましょう。
退職届を提出する
決済賞の承諾によって退職日が確定したら、退職願と同じように、退職届を提出します。
退職届については独自のフォーマットを用意している職場もあるため、「書式の指定はありませんか?」など確認しておくと行き違いが発生しません。
また、退職(退職日)が確定した以降は、退職する旨を社内で公表できます。
言い換えると、退職が確定するまでは、退職する旨は、内に秘めておくということです。
「○○さんが退職するらしいよ」などの噂が流れれば、社内をザワつかせ、周囲の士気を下げることにもなりかねません。上司の耳に入れば先手を打たれ、引き留め工作が行われるかもしれません。
事前に同僚などに相談したい気持ちはわかりますが、退職が確定するまでは面白半分で触れ回ることはやめましょう。
引き継ぎ
業務の引き継ぎをしましょう。
一般的なスケジュールで言えば、退職時の引き継ぎにかけられる期間は2~4週間程度です。
この期間を妥当と感じるかは、業務内容や引き継ぐ相手の熟練度などによりますが、いずれにしても退職日を変更することはできません。
「4週間では引き継ぎしきれない…」と感じる人は、ここまでの手順を前倒しや短縮して、帳尻が合うようにスケジューリングしておく必要があります。
まれに、「間に合わなくても何とかするでしょ」と根拠のない無責任な考え方をする人がいますが、引き継ぎは、退職前の最後の仕事です。退職までは給与が支払われていることを忘れてはいけません。
「立つ鳥、跡を濁さず」という言葉があるように、自分のいた場所をきれいにして、職場や後任者に迷惑をかけずに立ち去りましょう。
1か月前|有給休暇を消化
社外関係者に退職の挨拶をし、有給休暇を消化しましょう。
社外関係者に挨拶をする(テンプレートあり)
取引先や、社外のお世話になった人に、退職の挨拶をしましょう。
昨今では「退職の挨拶=メール」が慣習になっているため、ここではメールでの挨拶について紹介します。もちろん、挨拶は面と向かって伝えるに越したことはないため、融通が利く場合は、先方に足を運びましょう。
また、退職の挨拶にあわせて後任者を紹介しましょう。
退職後も安心して取引を続けてもらえる状態にすることは退職者の責務です。後任者の紹介をもって引き継ぎが完了します。
件名:
退職のご挨拶(株式会社○○ 氏名)
本文:
株式会社○○
○○部○○課
○○ ○○様
いつもお世話になっております。株式会社○○の○○でございます。
私事で恐縮ですが、一身上の都合により、○○月○○日をもって株式会社○○を退職することになりました。最終出社日は○○月○○日の予定です。
○○様には何かとお力添えをいただき、ありがとうございました。心より感謝申し上げます。
(先方とのエピソードトークなどあれば挿入)
なお、後任は、○○が務めさせていただきます。
後日、○○からご挨拶をさせていただきますので、変わらぬご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。
後任者名:○○ ○○
電話番号:○○
メールアドレス:○○
本来であれば、直接伺ってご挨拶すべきところ、メールでご報告となりますことご容赦ください。
末筆ながら、○○様のご活躍をお祈りいたします。
(署名)
有給休暇を消化する
有給休暇の消化をしましょう。
退職の際に有給休暇を消化する場合、「退職日に出勤する」「退職日に出勤しない」の2パターンがありますので、それぞれのメリット・デメリットを説明します。
パターン1:退職日に出勤する場合
有給休暇の消化期間を挟んで、退職日は出勤するパターンです(最終出勤日=退職日)。
※退職日は31日、有給休暇の残日数は8日。
退職手続きや挨拶回りをまとめてできる。
備品(特に健康保険証)を手渡しで返却できる。
手続きなどが完了すると暇になる(定時まではいなければならない)。
退職日の出勤が気になって有給休暇を満喫できない。
パターン2:退職日に出勤しない場合
有給休暇の前日を最終出勤日として、退職日は出勤しないパターンです(最終出勤日≠退職日)。
※退職日は31日、有給休暇の残日数は8日。
退職日も含めて出勤する必要がないため、心置きなく有給休暇を満喫できる。
退職手続きや挨拶回りは、最終出勤日に行っても違和感はない。
有給期間中に使用する可能性がある健康保険証などは郵送で返却しなければならない。
最終出勤日|退職に関する書類を受領
いよいよ最終出勤日です。
備品の返却、退職に関する書類の受領、社内関係者に挨拶をし、退職しましょう。
備品などを返却する
職場から貸与されているものを返却しましょう。
ここでは、一般的に返却が必要なものを紹介しますが、中には、「え?それも返すの?」というものまで返却を求める職場もあるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
職場に返却するものリスト
- 健康保険被保険者証(保険証)
- 身分証明書(社員証・社章・カードキーなど)
- 名刺
- 経費で購入したツール(携帯電話・パソコン・ガジェットなど)
- 通勤定期券(Suica・ICOCA・PASMOなど)
- 機密情報やノウハウ(書類・データなど)
健康保険被保険者証(保険証)
職場を通じて社会保険に加入している場合、保険証は退職日の翌日から使用できません。
無効となった保険証は、退職者→職場→日本年金機構→全国健康保険協会(協会けんぽ)の順で返納しなければならないため、返却の優先順位は高いです。
なお、保険証は、退職日当日(郵送の場合は退職日以降)に返却します。
それ以前に回収し、退職日までの代用としてコピーを渡してくる職場がありますが、原則、保険証のコピーは医療機関で利用できません(医療費全額を支払い、後に払い戻し請求をするなどの手間がかかります)。
身分証明書(社員証・社章・カードキーなど)
職場の一員であることを示す社員証や社章、制服などを返却します。
その他、カードキーや入館証、ロッカーの鍵(スペアキー含む)などセキュリティ関連の備品も忘れないようにしましょう。
名刺
自分の名刺はもちろんですが、仕事を通じて受け取った名刺も返却しなければなりません。
なぜなら、取引先の名刺(顧客情報)は職場の資産だからです。
経費で購入したツール(携帯電話・パソコン・ガジェットなど)
職場の経費で購入したものも、職場の資産です。
分かりやすいところでは携帯電話やパソコン(付随するソフト含む)が挙げられますが、ペンやファイル、デスク周りのガジェット(パソコンスタンド・マウス・各種ケーブル・卓上扇風機など)も勝手に持ち帰ってはいけません。
通勤定期券(Suica・ICOCA・PASMOなど)
通勤定期券や、移動用の交通系ICカードなどの現物が支給されている場合には返却します。
また、事前に、数か月分の通勤費や、預り金としての交通費が支給されている場合、余剰分は精算(返金)が必要になるでしょう。
通勤費や交通費の精算方法については労働基準法などの法令に定めがないため、職場のルールや慣習に従うことになります。
機密情報やノウハウ(書類・データなど)
機密情報や業務ノウハウはもちろん、自分で作成した分析データやプレゼン資料、社内外メール、日報にいたるまで、すべてが職場の資産です。
「今後の仕事に役立ちそうだから…」とコピーやクラウド保存によって持ち帰ってしまうと(すでに自宅のパソコンなどに保管している場合も)、後々、情報漏洩などのトラブルに発展する可能性があります。
なお、職場によって、「破棄しておいて」「後任者に渡しておいて」「記録媒体に保管して返却して」など方針が様々ですので、破棄(消去)してしまう前に、取り扱い方法を確認しましょう。
退職に関する書類を受領する
返却するものがある一方で、職場から受け取らなければならないものもあります。
雇用保険の失業給付に必要なものや、転職先に提出しなければならないものもあるため、漏れなく受け取りましょう。
職場から受領するものリスト
- 雇用保険被保険者離職票
- 雇用保険被保険者証(職場に預けている場合)
- 年金手帳(職場に預けている場合)
- 源泉徴収票
雇用保険被保険者離職票
いわゆる離職票のことで、雇用保険の失業給付手続きに必要な書類です。
言い換えると、転職先が決まっているなど、失業給付を受けない人は必要ありません。
※「雇用期間が31日未満」「1週間の所定労働時間が20時間未満」の両方を満たす人は、雇用保険に加入していない場合があります(失業給付は受けられません)。
離職票が退職者の手元に届くまでの流れは次のとおりです。
ポイントは、離職票は、希望者にしか交付されない、退職日から2週間前後で手元に届く、ということです。
- 退職者が職場に「離職票」の交付を求める(退職届を提出するタイミングで伝えてOK)。
- 職場がハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出(退職日の翌日から10日以内)。
- ハローワークが会社に「雇用保険被保険者離職票-1(離職票-1)」と「雇用保険被保険者離職票-2(離職票-2)」を交付。
- 会社が退職者に「離職票一式」を交付(郵送の場合が多い)。
雇用保険被保険者証(職場に預けている場合)
雇用保険の被保険者であることを証明する書類です。
転職先が決まっていない場合は、雇用保険の失業給付手続きに必要となり、転職先が決まっている場合は、転職先に提出することになります。
1度でも雇用保険に加入したことがある人には、それぞれ雇用保険の被保険者番号が割り振られていて、この番号は退職や転職をしても変わりません。
転職のたびに提出する理由は、「この番号で手続きしてね」と被保険者番号を知らせるためで、退職のたびに返却されることが一般的です。
なお、何らかの理由で紛失してしまった場合、最寄りのハローワークで再発行できます。
雇用保険被保険者証は、15×10cmくらいの紙切れです。免許証や保険証のようなカードではありません。
年金手帳(職場に預けている場合)
厚生年金の被保険者であることを証明する書類(小冊子)です。
転職までにブランクが空く場合は、厚生年金から国民年金などへの種類変更に必要となり、ブランクなく転職する場合は、転職先に提出することになります。
年金手帳も雇用保険被保険者証とあわせてに職場に預けるケースがありますが、入社手続き後すぐに返却されるケースもあります。事前に、所在を確認しておくとよいでしょう。
源泉徴収票
所得税の確定申告(年末調整)に必要な書類で、1年間の、給与額と所得税額が記載されています。
退職した年内に転職先から給与が支給されない場合は、個人で行う確定申告に必要となり、支給される場合は、転職先に提出する(転職先が年末調整をしてくれる)ことになります。
社内関係者に挨拶をする(テンプレートあり)
社内のお世話になった人に、退職の挨拶をしましょう。
社外宛の挨拶と同じく、「退職の挨拶=メール」が慣習になっているため、ここではメールでの挨拶について紹介します。
お菓子などを持って挨拶回りをする人もいると思いますが、関係者全員に会えるとは限りませんし、直接伺うほどの関係ではない人もいるでしょう。
メールを基本として、そのうえでの個別に挨拶するという形を取ると、抜け漏れも防げます。
送信のタイミング
送信のタイミングは、最終出勤日の夕方(退勤定時の1~2時間前)が好ましいとされています。
理由は、日中のメールは業務の妨げになる可能性が高いためですが、労働形態などによっても異なるため職場の慣習に従いましょう。
一斉送信の注意点
「同じ部署の人には全員送る…」「あの人にはお世話になったし…」「あの人に送るなら、この人にも…」と悩んでいるうちに、宛先はかなりの数になってしまうものです。
挨拶メールを送る相手が多い場合は、一斉送信しても問題ありません。
ただし、宛先の入力方法には注意しましょう。
送信先メールアドレスは「BCC」欄に入力し、受信者からは、誰に送信されているかわからなようにしましょう。
※「TO」欄が空欄だと送信できないため、自分のメールアドレスを入力します。
挨拶メールのテンプレート
社内宛の挨拶メール(特に一斉送信の場合)は、シンプルな内容にしましょう。
挨拶メール(社内)のポイント
- 退職理由は書かない。
退職理由は「一身上の都合」とします。詳しい事情や、転職先の情報などを伝える必要はありません。 - ネガティブなことは書かない。
退職に不満があったとしても、愚痴や批判を書き連ねることもやめましょう。
「終わりよければすべてよし」です。受け取る側に爽やかな印象を持ってもらえる内容にしましょう。 - 退職後の連絡先は書いてもOK。
社外宛の挨拶メールと違い、連絡先を知らせることに問題はありません。
ただし、一斉送信メールの場合は全員に知られることになるため、基本的には個別に知らせた方がよいでしょう。
件名:
退職のご挨拶(氏名)
本文:
お疲れ様です。○○部○○課の○○です。
私事で恐縮ですが、一身上の都合により、○○月○○日をもって退職することになり、本日が最終出勤日となります。
本来であれば、直接ご挨拶すべきところ、メールでご報告となりますことご容赦ください。
これまで至らぬ点もあったかと思いますが、多くの方々にサポートしていただきながら、業務を通して様々なことを学ばせていただきました。
この会社での経験や学びを活かし、今後もより一層精進してまいります。
私用の連絡先は下記ですので、何かございましたらご連絡いただければ幸いです。
メールアドレス:○○
電話番号:○○
最後になりましたが、皆様のさらなるご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます。
今まで、本当にありがとうございました。
(署名)
4. 退職届・退職願についてよくある質問
この章では、退職届・退職願についてよくある質問の中で、書面の提出などで解決できる比較的に実行難易度の低いものについて回答します。
【質問1】退職を認めてくれなかったら?
回答
労働者には退職の自由が認められているため、次の条件を満たせば、職場の同意がなくても退職が成立します。
無期労働契約の場合:2週間前の申入れ(年俸制の場合は3か月前)
有期労働契約の場合:契約期間の初日から1年が経過した日以降の申入れ
職場が退職を認めないことを在職強要と言い、違法性が認められる場合があります。
なぜなら、労働者には、法律による退職の自由が認められているからです。
雇用契約の種類によって、退職成立までの期間が異なりますので、それぞれ解説します。
無期労働契約の場合
無期労働契約とは、雇用契約書に期間の定めがないものです。いわゆる正社員の他に、期間の定めがないパートタイムやアルバイトも含まれます。
雇用契約は、解約(退職)の申入れの日から2週間を経過した日に終了します(民法第627条第1項)。
ただし、6か月以上の期間によって報酬が定められている労働者、つまり、年俸制の人は、2週間前ではなく、3か月前の申入れとなることに注意してください。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
〔出典〕民法第627条
有期労働契約の場合
有期労働契約とは、雇用契約書に期間の定めがあるものです。3か月、6か月、1年などの期間ごとに契約が更新されていく、契約社員や派遣社員、パートタイム、アルバイトが該当します。
原則、各契約期間が満了するときでなければ退職はできません。
ただし、雇用期間の初日から1年を経過した日以降であれば、申入れによって直ちに退職できます(労働基準法第137条)。
第百三十七条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
〔出典〕労働基準法第137条
なお、無期労働契約、有期労働契約(勤続1年未満)にかかわらず、やむを得ない事由がある場合には、直ちに退職できます。
この場合のやむを得ない事由には、賃金の未払い、劣悪な労働環境、疾病、負傷、家族の介護などが挙げられます。ただし、個人的な都合などによる場合は。損害賠償請求に発展する可能性もあることに注意してください。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
〔出典〕労働基準法第628条
具体的なアクション
民法や労働基準法を引用して、再度、退職の意志を伝えましょう。
そのうえでも退職を認めてもらえない場合、退職の申入れ(意思表示)をした証拠を残す意味も含めて、内容証明で職場の代表者宛に退職届を郵送しましょう。
【質問2】損害賠償を請求すると言われたら?
回答
この場合、論点は2つあります。
①退職をすることで損害賠償をしなければならないのか?
②就業規則に損害賠償に関する定めをしてよいのか?
です。
①については、適法に退職を申し入れているのであれば、退職を原因とした損害賠償は無効。
②については、労働契約の不履行についての違約金や損害賠償額を定める(予定する)ことは違法。
2つの論点について、それぞれ解説します。
①退職をすることで損害賠償をしなければならないのか?
労働者には退職の自由が認められているため、上記【回答1】の内容などに基づき、適法に退職を申し入れているのであれば、退職を原因とした損害賠償が認められることはありません。
②就業規則に損害賠償に関する定めをしてよいのか?
使用者(職場)が、労働契約の不履行による違約金や損害賠償額を、雇用契約書や就業規則に定めることは禁止されています(労働基準法第16条)。
例えば、「途中で辞めたら違約金を払え」「会社に損害を与えたら○○円払え」などです。
なぜなら、これらを定めることで、退職の自由を奪い、結果、在職強要につながるからです。
(賠償予定の禁止)
第十六条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
〔出典〕労働基準法第16条
具体的なアクション
適法な退職を原因とする損害賠償請求は無効ですので、気にする必要はありません。
【質問3】有給休暇を認めてくれなかったら?
回答
有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利です。
雇用契約書や就業規則に有給休暇に関する記載がない場合でも、労働者はこの権利を行使することができます。
労働基準法に定められた基準は強制的に適用されます。当事者間の合意があっても、それを下回る取り決めは無効です。
法律(条文)には、強行法規と任意法規があり、労働基準法は強行法規に該当します。
↓表はスクロールできます
強行法規 | 当事者間の合意があっても、法律で定める基準に達しないルールを定めることができないもの。 厳密に言うと、基準に達しないルールを定めることは自由だが、そのルールは無効になる。 |
任意法規 | 当事者間の合意があれば、法律で定める基準に達しないルールを定めることができるもの。 |
有給休暇は、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、労働基準法で定められています。
強行法規である労働基準法の定めですから、雇用契約書や就業規則に記載がなくても、または、法律で定める基準を下回る記載があっても、有給休暇は取得できます。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
〔出典〕労働基準法第39条第1項
なお、労働基準法で定める基準(付与日数)は次のとおりです。
付与日数表/フルタイム
一般的なフルタイムの労働者に適用されます。
- 週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者。
- または、1年間の所定労働日数が217日以上の労働者。
雇入れの日から起算した勤続期間 | 付与される有給休暇の日数 |
---|---|
6か月 | 10労働日 |
1年6か月 | 11労働日 |
2年6か月 | 12労働日 |
3年6か月 | 14労働日 |
4年6か月 | 16労働日 |
5年6か月 | 18労働日 |
6年6か月以上 | 20労働日 |
付与日数表/フルタイム以外
パートやアルバイトなど、労働日数や時間が少ない労働者に適用されます。
- 週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下の労働者。
- または、1年間の所定労働日数が48日~216日までの労働者。
↓表はスクロールできます
週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 雇入れの日から起算した継続勤務期間(単位:年) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
4日 | 169~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
2日 | 73~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
1日 | 48~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
有給休暇の時効消滅
有給休暇の付与日数は上記のとおりですが、何年もためておけるものではありません。
付与された日から2年を経過すると、時効により消滅します。
付与された日から2年を経過した分から消滅していくため、退職時の最大残日数は、「6年6か月以上勤続し、過去2年間に1日も有給休暇を使用したことがない人」でも、法律に基づけば、40労働日分(20日分+20日分)ということになります。
(時効)
第百十五条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
〔出典〕労働基準法第115条
具体的なアクション
労働基準法を引用して、再度、有給休暇取得の意志を伝えましょう。
そのうえでも取得を認めてもらえない場合、申し入れをした証拠を残す意味も含めて、内容証明で職場の代表者宛に有給休暇取得の旨を付記した退職願を郵送しましょう。
【質問4】退職を言い出せないときは?
回答
労働者には退職の自由が認められていますが、「上司に言い出せない」「絶対に辞めさせてもらえない」「繁忙期に辞めるのは気が引ける」などの理由から、退職を言い出せない人もいます。
しかし、その責任感や優しさのあまり、ストレスを抱え、体調を崩すなどしてしまっては元も子もありません。どうしても言い出せない場合は、退職代行サービスの利用も検討しましょう。
退職代行サービスとは、本人に代わって退職の意志を伝え、必要に応じて交渉などをしてくれるものです。
しかし、インターネットで「退職代行」と検索すれば多くの退職代行サービスが見つかり、どこに依頼すべきか悩んでしまう人は少なくありません。
退職代行サービスの選定基準
選定基準は2つだけです。
基準1. 誰が代行してくれるか?
弁護士が代行してくれる退職代行サービスを選ぶということです。
退職代行を必要とするような職場は、(語弊を恐れずに表現すれば)叩けばほこりが出ます。
例えば、有給休暇制度がない、残業代が支払われていない、などです。
どうせなら正当な権利や対価を請求してから退職したいと考えるのは当たり前のことですが、これら交渉の代理は弁護士にしかできません。
言い換えると、退職交渉の過程で発見されるかもしれないすべての請求権に対応できるのは、弁護士だけということです。
※特定社会保険労務士など、一定の条件下で代理人になれるものもありますが、多岐にわたり代理できるのは弁護士だけです。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。〔出典〕弁護士法第72条
基準2. 裁判が必要になった場合の費用はいくらか?
裁判時にかかる別途費用を確認するということです。
特に残業代や退職金などの未払い賃金の請求においては、いわゆる示談交渉では和解できず、裁判(訴訟または労働審判手続き)が必要になることは少なくありません。
しかし、退職代行サービスのWebサイトに記載されている料金は示談交渉で解決した場合の額であり、裁判時にかかる別途費用が明記されていないことがほとんどです。
当然、退職代行サービスを契約する際には別途費用についても説明がありますが、事前に確認しておくことで、「初回面談に行ってみたら他サービスより高額だった」と無駄足を踏まずに済みます。
裁判時にかかる費用の相場は、成功報酬25~35%(着手金不要)です。30%以下であればかなり安いと言えるでしょう。
なお、郵送料実費負担は一般的ですが、残業代などの計算費用が別途発生する場合もあることに注意してください。
おすすめの退職代行サービス
…とは言え、上記2つの選定基準を満たす退職代行サービスを見つけることはそう簡単ではありません。
CareerTheory編集部としておすすめできるサービスを3つ選定したので参考にしてください。
※表内の各情報は2023年10月31日時点のものです。契約前に十分に確認してください。
↓表はスクロールできます
料金 (税込み) |
残業代や退職金請求の成功報酬 | 残業代などの計算費用 | ||
---|---|---|---|---|
示談 | 裁判 | |||
弁護士法人みやび | 55,000円 | 20% | 事前に要確認 | 事前に要確認 |
弁護士法人エース | 55,000円 | 24% | 24%+法廷日当30,000円 | 事前に要確認 |
フォーゲル綜合法律事務所 | ①円満退職代行コース 33,000円 ②円満退職あんしんプラス 55,000円 ※その他、業務委託コースなどあり |
不要 ①は残業代回収を含む ②は残業代と退職金回収を含む |
事前に要確認 | 別途 ※額は事前に要確認 |
具体的なアクション
「結局、どこに依頼すればよいの?」という声が聞こえてきそうですが、1人1人の状況によって異なります。
退職代行だけであれば、フォーゲル綜合法律事務所の「円満退職代行コース」が最安値と言えます。
一方で、退職と同時に、残業代・退職金・未払い賃金・解雇予告手当・慰謝料などを請求したいケースにおいては、Webサイトからだけでは料金(報酬率)を計算することができません。
あるいは、職場からお金を借りている、職場から損害賠償を請求される根拠があるなどの場合には、想定外の費用(弁護士費用)がかかることもあります。
成功報酬率が1%違うだけで、あなたの手元に残るお金が数万円変わる世界ですから、複数のサービスにて状況を素直に相談し、最善と思えるサービスを選択しましょう。
5. 泣き寝入りしたくない!円満退職ではないときにやるべきこと
この章では、労働基準監督署や弁護士への相談も視野に入る、少し込み入ったケースの解決策を紹介します。
退職届・退職願に不満や主張を書くだけでは効果的とは言えません。正当な権利を行使するためにはそれなりのアクションが必要です。
【ケース1】会社都合による解雇
会社都合による解雇に納得できない場合、論点(争点)は大きく3つありますので、順番に解説していきます。
- 退職(解雇)を回避したい
- 解雇予告手当をもらいたい
- 特定受給資格者に認定されたい
1. 退職(解雇)を回避したい
「理由もよくわからないままに解雇された。解雇を取り消してもらいたい!」
解決策
解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には無効ですから、解雇の無効を主張することになります。
ただし、解雇に合理的な理由があるかなどの判断権限は裁判所にあるため、裁判を視野に入れたアクションが必要になります。
ポイントは、条文にある「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」の程度になりますが、裁判例に鑑みるなら、よほどの理由でもない限り、解雇が(合理的な理由によるものと)認められることはないと言えます。
(解雇)
第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。〔出典〕労働契約法第16条
解雇が有効と認められた裁判例
- 労働者が業務上のミスを繰り返し、顧客からもたびたび苦情が寄せられていた。上司から繰り返し改善を求められたにも関わらず勤務態度を改めなかった(日本ストレージテクノロジー事件 東京地判平18.3.14 労経速1934-12)。
- 労働者が酒に酔った状態で出勤し、勤務時間中に居眠りしたり、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒したりし、職場機能などを乱し、勤務態度を改める見込みが乏しかった(小野リース事件 最三小判平22.5.25 労判1018-5)。
解決手順
-
手順1解雇通知書をもらう解雇を通知されたことの証拠になります。
例外はありますが、職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。
通知の方法は定められていませんが、これを理由に解雇通知書を請求しましょう。 -
手順2解雇理由証明書をもらう解雇に合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から解雇理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第2項)。 -
手順3弁護士に相談解雇に合理的な理由があるかなどの判断権限は裁判所にあります。訴訟や労働審判手続きを視野に入れて弁護士に相談しましょう。
2. 解雇予告手当をもらいたい
「突然、明日から来なくてよいと解雇された。急に言われても困るので手当を支払ってほしい!」
解決策
職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりませんが、30日以上前の予告を経ずに解雇をする場合、解雇予告手当(30日に不足する日数分の手当)を支払わなければなりません。
(30日以上前に予告があった場合には、解雇予告手当は発生しません)
まずは職場に対して請求することになりますが、応じない場合は、労働基準監督署への相談(申告)を視野に入れたアクションが必要になります。
解雇予告手当については難しい判断基準もなく、そのまま労働基準法に定められています。
(解雇の予告)
第二十条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。〔出典〕労働基準法第20条
なお、平均賃金(1日分の手当)は次の計算式で求めます(労働基準法第12条第1項)。
平均賃金=(過去3か月分の賃金の合計額)÷(過去3か月の総暦日数)
解決手順
-
手順1解雇通知書をもらう解雇を通知されたことの証拠になります。
通知の方法までは定められていませんが、上記労働基準法第20条を理由に解雇通知書を請求しましょう。 -
手順2解雇理由証明書をもらう解雇に合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から解雇理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第2項)。
解雇予告手当をもらいたいだけの場合には解雇理由までは必要ありませんが、別の争いが発生した場合に備えてもらっておくとよいでしょう。 -
手順3労働基準監督署に相談(申告)解雇予告手当の不払いは明らかな労働基準法違反ですので、職場を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。
3. 特定受給資格者に認定されたい
「会社都合の解雇なのに自己都合退職にされた。離職理由を解雇に修正してほしい!」
解決策
退職後に雇用保険の失業給付を受ける場合、特定受給資格者に認定されると、受給要件や受給期間、給付制限が緩和されます。
この認定条件のひとつが解雇であり、解雇により離職した人は、特定受給資格者となります。
しかし、実質は解雇であるにも関わらず、自己都合退職で処理を進めようとする職場もあります。
離職票の離職理由に自己都合と記載されてしまった場合には、特定受給資格者に該当するかの判断権限を持つハローワークに相談(申告)するというアクションが必要になります。
せっかく緩和されるのですから、職場から提示される書面にむやみに署名捺印しない、解雇の場合は退職届・退職願は提出しないなど注意しましょう。
↓表はスクロールできます
通常の離職者 (離職理由:自己都合) |
特定受給資格者 (離職理由:解雇など) |
|
---|---|---|
受給要件 | 離職の日以前2年間に、 被保険者期間が通算して12か月以上ある。 |
離職の日以前1年間に、 被保険者期間が通算して6か月以上ある。 |
受給期間 | 90〜150日 ※被保険者であった期間、年齢によって変動 |
90〜330日 ※被保険者であった期間、年齢によって変動 |
給付制限 | 3か月 | なし |
解決手順
-
手順1解雇通知書をもらう解雇を通知されたことの証拠になります。
例外はありますが、職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。
通知の方法は定められていませんが、これを理由に解雇通知書を請求しましょう。 -
手順2解雇理由証明書をもらう解雇に合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から解雇理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第2項)。
離職理由を証明したいだけの場合には解雇理由までは必要ありませんが、別の争いが発生した場合に備えてもらっておくとよいでしょう。 -
手順3ハローワークに相談(申告)特定受給資格者に該当するかの判断権限はハローワークにあります。失業給付手続きの際に、離職理由を申告すると職場に確認を取ってくれます。
【ケース2】雇止めによる解雇
雇止めによる解雇に納得できない場合、論点(争点)は大きく3つありますので、順番に解説していきます。
- 退職(雇い止め)を回避したい
- 解雇予告手当をもらいたい
- 特定理由離職者(特定理由離職者)に認定されたい
なお、前述の「【ケース1】会社都合による解雇」に似た内容となりますが、【ケース1】は無期労働契約が対象、この【ケース2】は有期労働契約が対象です。
有期契約にはもともと契約期間があるため、雇止め(期間満了をもって更新を拒否すること)自体は違法ではありません。ただし、特定の場合においては、契約期間の満了を理由とした雇止めは違法になります。
1. 退職(雇い止め)を回避したい
「契約の更新を拒否された。雇止めを取り消してもらいたい(契約を継続してほしい)!」
解決策
ある条件に該当する雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効ですから、雇止めの無効を主張することになります。
ただし、雇止めに合理的な理由があるかなどの判断権限は裁判所にあるため、最終的には、裁判を視野に入れたアクションが必要になります。
ポイントは、下の条文にある「一号」と「二号」です。これらに該当する場合は、「【ケース1】会社都合による解雇」同様に、よほどの理由でもない限り、雇止めが(合理的な理由によるものと)認められることはないと言えます。
(有期労働契約の更新等)
第十九条
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
〔出典〕労働契約法第19条
一方で、「条文を読んだけど意味が分からない」「なんでこんなに回りくどく書くの?」と、自分が一号または二号に該当するかわからないという人もいると思いますので、それぞれ要約します。
一号の要約
契約が複数回更新され、実質が無期労働契約と変わらない労働者から契約更新の申し込みがあった場合、無期労働契約の労働者を解雇するのと同等の合理的な理由がなければ、雇止めできない(同一の労働条件で更新されたとみなされる)。
「複数回」や「実質が無期労働契約と変わらない」の定義はなく、それぞれの実態に基づき判断されますが、次のような場合には無効を主張できる可能性は高いと言えます。
- 更新時に契約書を作成していない。
- 更新時に契約内容の相互確認をしていない。
- 上記のような状態で複数回の契約更新をしている。
二号の要約
合理的な理由をもって契約が更新されるものと期待している労働者から契約更新の申し込みがあった場合、職場側にも合理的な理由がなければ、雇止めできない(同一の労働条件で更新されたとみなされる)。
契約が更新されるものと期待する「合理的な理由」も定義されていませんが、次のような場合には無効を主張できる可能性は高いと言えます。
- 業務内容が恒常的(短期プロジェクトのための労働契約などではない)。
- 更新回数が多い。
- 同じような業務を行っている人に比べると不公平。
解決手順
-
手順1雇止めの予告を受ける3回以上契約更新している、または、1年以上継続勤務している場合、職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第2条(PDF)]。
通知方法の定めや慣習もないため、口頭での予告になるケースが主です。 -
手順2雇止め理由証明書をもらう雇止めに合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から雇止め理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第3条(PDF)]。 -
手順3弁護士に相談雇止めに合理的な理由があるかなどの判断権限は裁判所にあります。訴訟や労働審判手続きを視野に入れて弁護士に相談しましょう。
2. 解雇予告手当をもらいたい
「契約の更新を拒否された。なかなか仕事が決まらなそうだから手当を支払ってほしい!」
解決策
無期労働契約の場合、30日以上前の予告を経ずに解雇をする場合、30日に不足する日数分の手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。
一方、ここで解説している有期労働契約の場合、解雇予告手当に関する明確な法令はありません。
ただし、置かれていた状況によっては、無期労働契約同様に解雇予告手当を請求できる可能性もあるため、労働基準監督署への相談(申告)や裁判を視野に入れたアクションが必要になります。
有期労働契約においては、「3回以上契約更新している、または、1年以上継続勤務している有期労働契約者に対して、少なくとも30日前に雇止めの予告をしなければない」という告示があるだけで、これに対する罰則や、解雇予告手当のような代替案は定められていません。
(雇止めの予告)
第二条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。) を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。
〔出典〕有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第2条(PDF)
ただし、契約が複数回更新され、実質が無期労働契約と変わらない状況であったことなどを立証できれば、無期労働契約同様に解雇予告手当を請求できる可能性はあります。
解決手順
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手順1雇止めの予告を受ける3回以上契約更新している、または、1年以上継続勤務している場合、職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第2条(PDF)]。
通知方法の定めや慣習もないため、口頭での予告になるケースが主です。 -
手順2雇止め理由証明書をもらう雇止めに合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から雇止め理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第3条(PDF)]。 -
手順3労働基準監督署に相談(申告)有期労働契約における雇予告手当の不払いは明らかな労働基準法違反とは言えませんが、まずは、職場を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。
-
手順3弁護士に相談労働基準監督署への相談(申告)で期待するような反応を得られなかった場合、訴訟や労働審判手続きを視野に入れて弁護士に相談しましょう。
3. 特定受給資格者(特定理由離職者)に認定されたい
「契約が更新されないから退職したのに自己都合退職にされた。離職理由を雇止めに修正してほしい!」
解決策
退職後に雇用保険の失業給付を受ける場合、特定受給資格者、または、特定理由離職者に認定されると、受給要件や受給期間、給付制限が緩和されます。
この認定条件のひとつが雇止めであり、雇止めにより離職した人は、このいずれかとなります。
しかし、万が一、離職票の離職理由が雇止め(労働契約期間満了等によるもの)以外にされてしまった場合には、特定受給資格者(特定理由離職者)に該当するかの判断権限を持つハローワークに相談(申告)するというアクションが必要になります。
ただし、2025年3月31日まで、雇止めによる特定理由離職者は「一部の特定理由離職者」として、特定受給資格者と同じ扱いになります(2023年10月31日時点 ※)。
※これまでも期間が延長されてきたため、今後も延長の可能性あり。
特定受給資格者の範囲(雇止め関連)
(8) 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
(9) 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記(8)に該当する場合を除く。)
〔出典〕ハローワーク:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
特定理由離職者の範囲(雇い止め関連)
期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)
※労働契約において、契約更新条項が「契約の更新をする場合がある」とされている場合など、契約の更新について明示はあるが契約更新の確約まではない場合がこの基準に該当します。
〔出典〕ハローワーク:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
また、回りくどく書かれているので要約すると、当初の有期労働契約に「更新はしない」と記載されていない限り、特定受給資格者(一部の特定理由離職者)として扱われるということです。
なお、通常の離職者と特定受給資格者、特定理由離職者の違いは次のとおりです。
せっかく緩和されるのですから、職場から提示される書面にむやみに署名捺印しない、雇止めの場合は退職届・退職願は提出しないなど注意しましょう。
↓表はスクロールできます
通常の離職者 (離職理由:自己都合) |
特定受給資格者 一部の特定理由離職者 (離職理由:雇止めなど) |
特定理由離職者 (離職理由:雇止めなど) |
|
---|---|---|---|
受給要件 | 離職の日以前2年間に、 被保険者期間が通算して12か月以上ある。 |
離職の日以前1年間に、 被保険者期間が通算して6か月以上ある。 |
|
受給期間 | 90〜150日 ※被保険者であった期間、年齢によって変動 |
90〜330日 ※被保険者であった期間、年齢によって変動 |
90〜150日 ※被保険者であった期間、年齢によって変動 |
給付制限 | 2か月 | なし |
解決手順
-
手順1雇止めの予告を受ける3回以上契約更新している、または、1年以上継続勤務している場合、職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第2条(PDF)]。
通知方法の定めや慣習もないため、口頭での予告になるケースが主です。 -
手順2雇止め理由証明書をもらう雇止めに合理的な理由があるかなどの証拠になります。
職場は、労働者から雇止め理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第3条(PDF)]。 -
手順3ハローワークに相談(申告)特定受給資格者(特定理由離職者)に該当するかの判断権限はハローワークにあります。失業給付手続きの際に、離職理由を申告すると職場に確認を取ってくれます。
【ケース3】休職期間満了による解雇(退職)
「病気のために休職しているが、休職期間満了を理由に解雇された。解雇(退職)を取り消してもらいたい!」
解決策
ある条件に該当する場合、休職期間満了を理由とした解雇(退職)は違法ですから、解雇(退職)の無効を主張することになります。
まずは職場に対して主張することになりますが、応じない場合は、労働基準監督署への相談(申告)を視野に入れたアクションが必要になります。
多くの職場では、就業規則などに休職制度が設けられています。
休職制度とは「労働者の都合によって長期的に労働を免除してもらう制度」のことで、職場ごとに任意で設けられているものです。
そのため、利用できる労働者の範囲や条件、休職期間、休職期間中の待遇、休職期間満了時に復帰できない場合の対応なども職場によって異なります。
さて、本題の休職期間満了を理由とした解雇(退職)についてですが、無効を主張できるかの判断基準は2つです。
判断基準1. 休職の理由
休職に至った理由が、「労働者の都合(休職)」、「職場の都合、または、業務上の負傷や疾病(休業)」のどちらに当たるかです。
休職と休業の違い
法令によって定義は異なりますが、ここでは次のように捉えてください。
休職:労働者の都合で、職場の承認を得て、長期的に休むもの。
休業:職場の都合(経営不振など)、または、業務上の負傷や疾病(セクハラ、パワハラ、長時間労働、退職強要などによる精神疾患含む)で、長期的に休むもの。
判断基準2. 休職期間満了時の対応
休職制度は就業規則に定められていますが、ここに休職期間満了時に復帰できなかった場合の対応も記載されています。
一般的には次のいずれかが記載されています。
- 休職期間満了までに復職できない場合は退職扱いとする。
- 休職期間満了までに復職できない場合は解雇する。
解雇(退職)制限の有無
「上記2つの判断基準」と「解雇(退職)の違法性や制限」を組み合わせたものが、下の表です。
↓表はスクロールできます
休職(休業)の理由 | 休職期間満了時に 復帰できなかった場合の対応 |
解雇(退職)の 違法性や制限 |
|
---|---|---|---|
① | 労働者の都合 | 退職扱い | なし |
② | 労働者の都合 | 解雇 | あり |
③ | 職場または業務上の都合 | 退職扱い | あり |
④ | 職場または業務上の都合 | 解雇 | あり |
それぞれの組み合わせについて、違法性や制限の有無を見ていきましょう。
①の組み合わせ
違法性や制限はないため、休職期間満了時は退職扱いになります。
②の組み合わせ
解雇事態に違法性はありませんが、30日以上前に解雇予告をしなければなりません。
また、30日以上前の予告を経ずに解雇をする場合、解雇予告手当(30日に不足する日数分の手当)を支払わなければならないなどのルールもあるため、詳しくは、この記事内の「会社都合による解雇 2. 解雇予告手当をもらいたい」を参照してください。
③の組み合わせ
解雇(退職)自体に違法性がある可能性があります。
なぜなら、法律で「業務上の負傷や疾病で休業する期間、及び、その後30日間は解雇してはならない」と定められているからです。
※就業規則に退職扱いとすると記載されていても、実質は解雇ですので、この条文が当てはまります。
(解雇制限)
第十九条
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。〔出典〕労働基準法第19条第1項
なお、業務上の負傷や疾病に関する費用は職場が負担し、且つ、労働できない状態の場合には、休業補償(平均賃金の60%)を支払わなければならないことになっています。
(療養補償)
第七十五条
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
(休業補償)
第七十六条
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。〔出典〕労働基準法第75条、同第76条第1項
ただし、業務上の負傷や疾病の療養を開始してから3年間を経過してもなおらない場合、1,200日分の平均賃金を支払うことで補償を打ち切ることができます。
補償が打ち切られた場合に限り、業務上の負傷や疾病で休業する期間であっても、解雇に違法性はなくなります。
(打切補償)
第八十一条
第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。〔出典〕労働基準法第81条
④の組み合わせ
上記②③両方の制限がかかります。
つまり、業務上の負傷や疾病で休業する期間、及び、その後30日間は解雇してはならず(打切補償をした場合は別)、且つ、解雇予告が必要(または解雇予告手当の支払い)となります。
解決手順
大前提として、休職期間満了前に復帰できることが最良です。どうしても復帰できず、且つ、違法に解雇された(退職させられた)場合は、次の手順を参考にしてください。
-
手順1休職前:医療機関で受診し診断書をもらう負傷や疾病の証拠になります。
「労働者の都合」か「業務上の負傷や疾病」かによって、後の違法性や制限の有無が変わるため、業務上の負傷や疾病であることの証拠収集も必要です。 -
手順2休職前:就業規則などを確認する「退職扱い」か「解雇」かによって、後の違法性や制限の有無が変わります。
-
手順3解雇(退職)の通知を受ける解雇の場合は解雇通知書と解雇理由証明書をもらいます。
職場は少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。
また、労働者から解雇理由について証明書の請求があった場合、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第2項)。 -
手順4労働基準監督署に相談(申告)違法性がある場合、労働基準法違反として職場を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。
【ケース4】セクハラによる退職
セクハラによって退職に追い込まれてしまった場合、論点(争点)は大きく2つありますので、順番に解説していきます。
- 労災を申請をしたい
- 慰謝料を請求したい
1. 労災を申請をしたい
「上司のセクハラが原因でうつ病になったから、(退職後だけど)労災申請したい!」
解決策
労災申請は在職中にしかできないと誤解している人もいますが、退職後でも申請は可能です。
一方で、職場がセクハラの事実を隠蔽しようとしたり、退職後だからと協力してくれない場合、労災申請書の「事業主の証明」欄に記載や押印をしてもらえないこともあります。
ただし、労災に該当するかなどの判断権限は労働基準監督署にあるため、労働基準監督署への相談(申請)を視野に入れたアクションが必要になります。
セクハラが原因で精神障害(精神疾患)を発病した場合、次の要件を満たせば、労災保険の対象になります。
要件1.
認定基準の対象となる精神障害を発病していること
認定基準の対象となる精神障害の体表的なものは、うつ病、適応障害、急性ストレス反応などです。
精神科のある病院で受診し、医学的に精神障害が認められるという診断書を書いてもらうことで、精神障害の発症を証明することができます。
要件2.
精神障害の発病前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
発病前のおおむね6か月間に起きた出来事について、心理的負荷の程度が評価されます。
※セクハラのように、出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前に出来事が始まり、かつそれが発病まで継続していたときには、出来事が始まった時点からの心理的負荷が評価されます。
セクハラにおいては、次の視点から総合評価されます。
心理的負荷の総合評価の視点
- セクハラの内容
- セクハラの程度などや継続する状況
- セクハラを受けた後の職場側の対応や内容、改善の状況
- 職場の人間関係 など
なお、セクハラだけでは強い心理的負荷が認められない場合でも、出来事の前後に、恒常的な長時間労働(月100時間程度)など、セクハラ以外の心理的負荷が複数生じていた場合には、合わせて評価されます。
要件3.
業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害を発病したとは認められないこと
ここで解説している労災保険は、業務上の原因によって発生した精神障害が対象になります。
そのため、私的な出来事(離婚など)や、本人以外の親族の出来事(配偶者や子ども、親の死亡など)があった場合、または、精神障害やアルコール依存症などの既往歴(過去発症した経験)がある場合には、それらが発病の原因となっていないか、慎重に判断されます。
解決手順
-
手順1医療機関で受診し診断書をもらう精神障害を発病していることの証拠になります。
-
手順2証拠を集める診断書は強い心理的負荷があったことの証拠にはなりません。因果関係を証明する証拠を集めます。
セクハラの場合には、ボイスレコーダーによる録音(隠し録り可)が有効ですが、難しい場合には、詳細な日記などを残します。 -
手順3労災申請書の作成職場が作成に協力してくれない場合、「事業主の証明」欄は空欄でも構いません。
-
手順4労働基準監督署に相談(申請)労働基準監督署に労災申請します。
2. 慰謝料を請求したい
「上司のセクハラが原因でうつ病になったから、労災申請にあわせて慰謝料も請求したい!」
解決策
労災申請(労災保険)は、生活をしていくための保障であり、ここには慰謝料の要素は含まれていません。気持ち的に納得できない場合は、慰謝料の請求も検討できます。
ただし、妥当性や額の判断権限は裁判所にあるため、最終的には、裁判を視野に入れたアクションが必要になります。
セクハラに対する慰謝料請求は、基本的には労災申請をした後に行います。
そのため、まずは上記の「1. 労災を申請をしたい」を参考に労災申請をしましょう。
なお、「労災が認められない = 慰謝料も請求できない」とはなりません。
労災保険法に基づく判断と、民法(不法行為)に基づく判断は、その基準が異なり、労災は否認されたが、慰謝料請求は容認されたケースも多くあります。
解決手順
-
手順1在職中:医療機関で受診し診断書をもらう精神障害を発病していることの証拠になります。
-
手順2在職中:証拠を集める診断書は強い心理的負荷があったことの証拠にはなりません。因果関係を証明する証拠を集めます。
セクハラの場合には、ボイスレコーダーによる録音(隠し録り可)が有効ですが、難しい場合には、詳細な日記などを残します。 -
手順3労災申請書の作成職場が作成に協力してくれない場合、「事業主の証明」欄は空欄でも構いません。
-
手順4労働基準監督署に相談(申請)労働基準監督署に労災申請します。
-
手順5弁護士に相談慰謝料の妥当性や額の判断権限は裁判所にあります。訴訟や労働審判手続きを視野に入れて弁護士に相談しましょう。
【ケース5】未払い残業代がある退職
「退職することになったが、支払われていない残業代を一気に請求したい!」
解決策
未払い賃金(未払い残業代)の請求は正当な権利ですから、証拠を収集して請求することになります。
まずは職場に対して請求することになりますが、応じない場合は、労働基準監督署への相談(申告)や裁判を視野に入れたアクションが必要になります。
次のような場合、未払い残業代を請求できる可能性が極めて高いと言えます。
「うちの会社は残業代がないから」と言われた
労働基準法に定められた基準は強制的に適用されます。当事者間の合意があっても、それを下回る取り決めは無効です。
法律(条文)には、強行法規と任意法規があり、労働基準法は強行法規に該当します。
↓表はスクロールできます
強行法規 | 当事者間の合意があっても、法律で定める基準に達しないルールを定めることができないもの。 厳密に言うと、基準に達しないルールを定めることは自由だが、そのルールは無効になる。 |
任意法規 | 当事者間の合意があれば、法律で定める基準に達しないルールを定めることができるもの。 |
残業代(割増賃金)は、労働時間を延長したり、休日に労働させた場合に支払わなければならない賃金であり、その最低額も労働基準法で定められています。
強行法規である労働基準法の定めですから、雇用契約書や就業規則に記載がなくても、または、法律で定める基準を下回る記載があっても、残業代は支払われなければなりません。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。〔出典〕労働基準法第37条第1項
「残業代は月間20時間分までしか支払わないから」と言われた
上記の「うちの会社は残業代がないから」と同じです。
強行法規である労働基準法の定めを下回る取り決めは無効なので、月間20時間を超えた分も支払われなければなりません。
「年俸制だから残業代はない」と言われた
年俸制とは、給与の支払い方法の種類であり、「残業代を支払う・支払わない」とは関係ありません。
年俸制、月給制、日給制などに限らず、残業代は支払われなければなりません。
「フレックス制だから残業代はない」と言われた
フレックス制とは、労働時間制度の種類であり、「残業代を支払う・支払わない」とは関係ありません。フレックス制、シフト制、などに限らず、残業代は支払われなければなりません。
「管理監督者だから残業代はない」と言われた
管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)には、労働時間(残業代)という概念がありません。その職務が、労働者よりも使用者に近いものになるからです。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの〔出典〕労働基準法第41条
この条文を逆手によって、「課長以上は管理監督者だから残業代は出ない」などと形式的に決めている職場がありますが、違法性は高いです。
労働基準法上の「管理監督者」は実態に即して評価されるもので、職場組織上の形式的な「管理者(管理職)」であるかどうかは関係ありません。
「管理者(管理職)」であっても、労働基準法上の「管理監督者」と評価される人はほとんどいないと言えます。
解決手順
-
手順1在職中:証拠を集める残業代請求においては、就業規則や雇用契約書、タイムカード(3か月分以上)のコピーは必須です。
タイムカードがない場合には、詳細な日記や職場PCからの退勤メールなどを残します。 -
手順2内容証明郵便で請求する未払い残業代を計算し、職場の代表者に対して内容証明郵便で請求します。
-
手順3労働基準監督署に相談(申告)職場が請求に応じない場合、労働基準法違反として労働基準監督署に相談(申告)します。
-
手順4弁護士に相談労働基準監督署に相談(申請)労働基準監督署がお手上げした場合、訴訟や労働審判手続きを視野に入れて弁護士に相談します。
6. この記事のまとめ
この記事「退職届の書き方まとめ|泣き寝入りしない交渉ノウハウも解説」では、下記を解説してきました。
長丁場になってしまったが、目次などを参考に、状況に応じた章を参考にしてもらえればと思います。
退職はその後の人生に大きな影響を与えるライフイベントです。
円満に退職するに越したことはありませんが、極論すれば、職場よりも、自分(あなた)のことを優先してください。
ストレスを抱え、体調を崩すなどしてしまっては元も子もありません。
責任感や優しさのあまり、退職を告げることができない人へ
どうしても退職を言い出せない人は、本人に代わって退職の意志を伝え、必要に応じて交渉などをしてくれる「退職代行サービス」に頼ることも検討してみてください。
ただし、「退職代行サービスに依頼した結果、余計に話がこじれた」という状況に陥らないためにも、次の2つを厳守してください。
退職代行サービスに依頼するときの厳守事項
- 弁護士が代行してくれるサービスを選ぶ
代理人になって交渉できるのは弁護士だけだから。 - 裁判時にかかる別途費用が相場であることを確認してから依頼する
Webサイトには裁判時にかかる別途費用が明記されていないことが多いから。
※詳細は「【質問4】退職を言い出せないときは?」で解説しています。
とは言え、上記2つを満たす退職代行サービスを見つけることはそう簡単ではありません。
そこでCareer Theory編集部としておすすめできるサービスを3つ選定したので参考にしてください。
※表内の各情報は2023年10月31日時点のものです。契約前に十分に確認してください。
↓表はスクロールできます
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- 残業代などの計算費用は別途発生するか?
弁護士法人エース
料金は55,000円(税込)と、弁護士が代行する退職代行サービスとしては平均的です。
残業代を請求し、示談で解決した場合の成功報酬率24%は少し安いかな程度ですが、裁判時の成功報酬24%は非常に良心的と言えます。
ただし、法廷日当30,000円(裁判所に出廷するごとに支払うもの)にも注意が必要です。
請求額が少ない場合には、成功報酬30%で法廷日当0円の方が結果的に安くなるケースもあります。
問い合わせフォームから相談できますので、状況を相談しながら、下記を確認しましょう。
なお、電話で相談したい人は、公式サイトに記載されている電話番号から予約することができます。
- ○○(あなたが請求したい内容)を請求して裁判に移行した場合の費用や報酬は24%で間違いないか?
※公式サイトには残業代請求以外の表記がないため。 - 残業代などの計算費用は別途発生するか?
フォーゲル綜合法律事務所
「円満退職代行コース(33,000円 税込)」や「円満退職あんしんプラス(55,000円 税込)」、その他、業務委託を解消したい人向けのコースなどがあります。
残業代や退職金を請求した場合でも、示談で解決すれば別途成功報酬の発生がない(上記料金に含まれている)点が大きな魅力です。
一般に、労働問題の解決を弁護士に依頼した場合、経済的利益の一定割合を支払うことがほとんどで、そうした成功報酬が基本の料金に含まれていることが、フォーゲル綜合法律事務所が持つ強いメリットなのです。
また、退職代行だけを依頼したい(他に請求はない)人にとっても、この「円満退職代行コース(33,000円 税込)」は良心的な価格とも言えます。
ただし、他のサービス同様に、裁判時の成功報酬率などが分からないため、即決はおすすめしません。
電話、お問い合わせフォーム、LINEで相談できますので、状況を相談しながら、下記を確認しましょう。
- ○○(あなたが請求したい内容)を請求して裁判に移行した場合の費用や報酬はいくらか?
- 残業代などの計算費用はいくらか?
正当な権利を主張したいけど、アクションを起こすことができない人へ
まずは無料で相談できる労働基準監督署の利用を検討してみてください。
労働基準監督署では解決できない場合、弁護士への依頼が必要になりますが、昔に比べると、実績のある廉価な弁護士も探しやすくなりました。
弁護士費用の一括見積ができるWebサイトもありますし、依頼内容(ジャンル)によっては、成功報酬型の弁護士事務所もあります。
なお、未払い賃金(残業代や退職金)請求について弁護士への依頼を検討している場合、退職代行と合わせて依頼した方が割安になるケースもあります。
退職するが転職先が決まっていない人へ
退職と就職(転職)は基本的にはセットと言えますから、退職準備と転職エージェントからのスカウト待ちを並行すると無駄がありません。
転職エージェントについては「図解でわかる転職エージェントの全知識」を参考にしてください。
現役の転職コンサルタント集団。大手人材会社に在籍しているメンバーが多いため、執筆内容に制約がかからないように『匿名性』とし、裏事情やノウハウを包み隠さずにご紹介しています。