キャリア採用とは、「即戦力となる人材の確保」を重視して行う採用のことです。
基本的には「中途採用」と同じ意味ですが、近年では目的を持って使い分けされるケースが増えてきています。
もし、用語の意味が曖昧なままだと、新卒以外で人材募集する際に最適な人材を確保できないかもしれません。
そこでこのページでは、次の内容をわかりやすく解説します。
最後まで読んで、企業を成長させる即戦力の人材確保に役立ててください。
目次
1.キャリア採用とは?中途採用・第二新卒との違い
キャリア採用とは、企業が求める職種について一定の知識・スキル・経験を持っている「即戦力となる人材の確保」を重視して行う採用活動のことです。
基本的には「中途採用」と同じ分類ですが、近年では “新卒以外のすべての求職者” が対象になる「中途採用」と区別する目的で、企業戦略に合った即戦力の採用活動を「キャリア採用」と呼ぶ傾向があります。
日本では、いち早く高い地位に昇進する国家公務員を「キャリア組」と呼ぶことから、キャリア(積み重ねた経験)という言葉に「優秀」のイメージが伴いやすいこともあって、「キャリア採用」という用語が定着しつつあります。
事実、「中途採用」から「キャリア採用」と表現を変えると応募者数が増えやすいことから、求職者を募る際には「キャリア採用」とした方が好感を持ってもらいやすいメリットがあります。
中途採用・第二新卒とキャリア採用との違いを整理すると、次のとおりです。
キャリア採用と中途採用の違い
中途採用とは、新卒採用以外で不定期に行う採用活動のことです。
正社員経験が未経験の人や、第二新卒の人、業界・職種が未経験の人、経験豊富でキャリアのある人を含む、就業経験のある新卒以外のすべての求職者が対象です。
終身雇用が常識的だった頃、定年に至る途中での採用ということから「中途採用」という名称が一般化されてきました。
近年では、一定のスキルや経験を持った人に対しても一括りに「中途採用」と表現するのは不適切であるという企業側の配慮のもと、「キャリア採用」と区別されるケースが増えています。
ですので「未経験者可」とする場合は、キャリア採用とは呼ばない傾向があります。
ちなみに「未経験者可」の場合は、「ポテンシャル採用」と呼ぶケースがあります。
ポテンシャル採用とは、即戦力を期待したキャリア採用とは対照的に、人材育成を前提とした採用活動のことです。
対象はおもに第二新卒をメインとした20~30代の業界・業種未経験者で、一部では新卒採用も含めて「ポテンシャル採用」と呼んでいる企業もあります。
キャリア採用と第二新卒の違い
第二新卒とは、新卒で入社した企業を三年以内に退職した求職者のことです。
一般的には25歳ぐらいまでとされていますが、一部では大学卒業後に1度も就職の経験がない人や、アルバイトの就業経験しかない人、フリーターも含めて「第二新卒」と呼ぶこともあります。
第二新卒は「キャリア採用」と同じ「中途採用」に分類されるものの、企業の即戦力となるスキルや経験を持っている可能性が低いため、「キャリア採用」とは異なる扱いになります。
企業によっては、見習いの意味合いで第二新卒の採用を「中途採用」または「ポンテンシャル採用」、経験やスキルがある求職者の採用を「キャリア採用」と使い分けるケースがあります。
2.キャリア採用が増えてきた背景
「キャリア採用」が増えてきた背景には、次のような原因が重なり合っていることが考えられます。
- 終身雇用制度は失われつつあり、転職も当たり前になった
- 労働者派遣法改正をきっかけに、多様な働き方が生まれた
- 日本の人口が減少したことで、人材の確保が難しくなった
- IT・デジタルの発展によって、生産性の向上を重視するようになった
1. 終身雇用制度は失われつつあり、転職も当たり前になった
キャリア採用が増えてきた理由には、戦後から本格的に普及した終身雇用制度が失われつつあり、転職も当たり前の時代になったことが考えられます。
戦後の高度経済成長期には、企業は経験値の高い人材の流出を防ぐために、終身雇用という形で優秀な人材を確保してきました。
ところが日本経済は1990年代から低迷期を迎え、終身雇用を約束された世代の「人件費を調整できないデメリット」が負担になったことで、早期退職や希望退職を募る企業が増えるようになりました。
また、組織の構造を機械化・AI化に対応させるために、黒字リストラが行われるようにもなりました。
このように、新卒で入社したら生涯勤め上げるのが当たり前の時代から、転職も当たり前の時代に変わったことで「キャリア採用」が増えるようになったと考えられます。
2. 労働者派遣法改正をきっかけに、多様な働き方が生まれた
労働者派遣法改正をきっかけにして多様な働き方が生まれたことも、キャリア採用が増えてきた理由として考えられます。
働き方改革が広まったことで、働く時間・場所、報酬などの自由度が広がるようになりました。
これによって、以前はひと括りにされていた「中途採用」の対象者が幅広くなりました。
様々な価値観の誕生で求職者のニーズが多様化したことも、「キャリア採用」が増えるようになった一因だと考えられます。
3. 日本の人口が減少したことで、人材の確保が難しくなった
日本では少子高齢化の時代を迎えたことで労働人口が減少し、人材確保が難しくしなったことも「キャリア採用」が増えている理由として考えられます。
総務省の「情報通信白書」によると、日本の人口は2008年をピークに減少の一途を辿っているとしています。
労働人口が減ったことで企業は業務の激化、負担が増えた社員へのストレスケア、相次ぐ離職への対応が課題となりました。
そのため、企業を支える優秀な人材を確保するために「キャリア採用」が増えるようになったと考えられます。
4. IT・デジタルの発展によって、生産性の向上を重視するようになった
また、キャリア採用が増えた理由には、IT技術の発展によって多くの企業が生産性の向上を重視するようになったことも考えられます。
以前は長時間労働を評価していた企業は、デジタル化が進んだことで短時間で成果を出せることを評価するようになりました。
IT技術は慣れ親しんだ若い世代ほどスキルが高く、勤続年数に応じたスキル向上は見込みにくい傾向があります。
自社内のみで人材育成するよりも、自社にはいない専門スキルを持った人材の必要性が高まってきたことも、「キャリア採用」が増える一因になったと考えられます。
3.キャリア採用するメリットとは
企業にとって即戦力となるキャリア採用には、新卒や第二新卒の採用とは異なるメリットとデメリットがあります。
まずは、メリットについて解説します。
キャリア採用には、次のようなメリットがあります。
1. 即戦力を期待できる
キャリア採用のメリットは、なんといっても企業にとって即戦力となる人材を獲得できることです。
「◯◯の経験が3年以上」など、企業が求める経験やスキルを自由に設定できるため、より具体的な人材を期待できます。
企業戦略に基づいた職種・職務能力を持つ人材を獲得できれば、企業目標の早期達成を見込めます。
2. 迅速な人材の補充ができる
キャリア採用は、迅速な人員の補充ができることもメリットです。
転職エージェントなどを活用すれば、最初に連絡をとってから1ヶ月ほどで内定までを完了させることが可能になります。
たとえ応募者が採用段階で他の企業に勤務していたとしても、採用通知から1〜2ヶ月で入社が可能なため、欠員補充として採用活動を始めた場合でも、欠員で業務が停滞する損失を軽減させることができます。
3. 教育コストを削減できる
また、キャリア採用のメリットは、新卒や第二新卒で採用するよりも教育コストがかからないことです。
キャリア採用の求職者は社会人としての経験値があるため、基本的な社会人研修やマナー研修が不要だからです。
前職との違いが少なければ、業務研修のコストも抑えられます。
4. 幅広い業務をカバーできる
キャリア採用は、幅広い業務をカバーできることもメリットです。
キャリア採用での求職者は管理職経験を持っていることも多いため、即戦力となる業務遂行能力の他に、組織のマネジメントなど、幅広く業務を任せられる可能性があります。
5. 組織の新陳代謝を図れる
さらにキャリア採用には、組織の新陳代謝を図れるメリットもあります。
自社にはなかった経験や知識、ノウハウを持っている可能性が高いため、既存社員に刺激を与えるなど、組織に良い影響をもたらす期待が持てます。
また、知識やノウハウ以外にも、採用者が前職までに築いてきた人的ネットワークを獲得できるケースもあります。
これも新卒や第二新卒の採用にはないメリットです。
4.キャリア採用するデメリットとは
即戦力が魅力のキャリア採用ですが、経験値の高い人材であるがゆえに次のようなデメリットもあります。
1. 採用コストが大きくなる
キャリア採用は新卒・第二新卒の採用と比べて、採用コストが大きくなることがデメリットとして考えられます。
転職エージェントなどを利用した場合は、紹介料として初年度の想定年収の約35%を支払う必要があるからです。
例えば、新卒採用と想定年収600万円の人材をキャリア採用した場合を比較すると、採用コストに次のような違いが生まれます。
新卒採用 | 93.6万円 |
キャリア採用 | 210万円(600万×35%の場合) |
参照:就職白書
また、即戦力となる人材は給与水準が高くなるため、もしもミスマッチを起こして数ヶ月で退職に至った場合は、時間的・金銭的な損失が発生してしまう恐れもあります。
2. 希望する人材が見つかりにくい
自社にピッタリ合う人材が希望するタイミングで見つからないケースがあることも、デメリットとしてあげられます。
キャリア採用の求職者は、転職活動のタイミングがそれぞれ異なるためです。
さらに、成果を残している優秀な人材ほど在籍企業で優遇されている可能性があるため、希望する人材がそもそも少ないパターンもあります。
3. 企業風土に馴染めず即戦力にならないリスクがある
キャリア採用で入社した人材が企業風土に馴染めずに、即戦力にならない可能性もデメリットのひとつです。
経験豊富であるがゆえに自分のやり方に固執した場合は、新しいやり方や職場環境に馴染めずに実力を発揮できないケースがあるからです。
あるいは、新サービスの立ち上げを目的に入社した場合は、既存社員との摩擦や衝突などが起こることで、現場を混乱させてしまう可能性もあります。
「前の職場ではもっと◯◯だったのに・・・」といった不満だけが重なった場合は、早期退職されるリスクも生まれます。
4. 数年で退職する可能性がある
キャリア採用で入社した人材が数年で退職してしまう可能性があることも、デメリットと言えます。
キャリア採用の応募者には、キャリアを積み上げるために転職を繰り返す人や、家庭の事情などでやむなく退職・転職を繰り返す人もいるからです。
自社にとって即戦力となる人材をせっかく獲得できたとしても、数年で人材が入れ替わる可能性があるので、キャリア採用をする際には面接時に将来のビジョンなどを確認しておく必要があります。
5.キャリア採用を成功へ導く3つのポイント
では、キャリア採用のメリット・デメリットを踏まえたうえで、キャリア採用を成功へ導くポイントを解説していきます。
キャリア採用の成功とは、企業と求職者の希望がマッチした人材の確保です。
キャリア採用を成功させるためのポイントは、次のとおりです。
1. キャリア採用に適した職種か?
キャリア採用に適した企業や職種であれば、キャリア採用が成功しやすくなります。
キャリア採用に適した企業とは、次のような成果に応じた働き方が重視されやすい企業です。
- 外資系企業
- IT企業
- ベンチャー企業
- スタートアップ企業
成果に応じた働き方が重視される企業では、優秀な人材に裁量権を与える組織文化があります。
経験やスキルを持った優秀な人材は、自分の実力を遺憾なく発揮できる働き方を望む傾向にあるため、これらの企業は求職者とマッチしやすい企業だと言えます。
また、キャリア採用に適した職種とは、次のような専門性の高い職種です。
1. 経営企画
経営企画は経営を左右するポジションであるため、経験やスキルを持っている人材が望まれる職種です。
特にベンチャー企業では、経営企画のポジションが務まる若手の人材が少ないこともあり、即戦力となるキャリア採用がマッチしやすい職種と言えます。
2. 営業
営業のスキルは短期間で身につけられるものではないため、キャリア採用での即戦力を期待しやすい職種と言えます。
また、採用した応募者がそれまで培った人脈を活かしやすい職種でもあり、新しい販路が生まれる期待も持てます。
3. 人事
企業の財産でもある「人」を扱う人事のスキルも、場数や経験によって得られるものですので、キャリア採用による経験者が求められやすい職種と言えます。
4. 財務
事業拡大で必要になる資金調達では、財務の経験値が重要になります。経験豊富なほど注目するべき数字がわかるので、キャリア採用が求められる職種と言えます。
5. 法務
コンプライアンスが重視される現代では、過去の事例を蓄積している法務の経験者が求められる傾向にあります。
万が一のトラブルが発生した際に適切な対応が取れる準備をするためには、キャリア採用での即戦力が求められます。
6. 研究開発
研究開発は開発にあたっての要領を検討する他に、必要な期間やコストが求められるため、経験ある人材が求められる傾向にあります。
7. エンジニア・プログラマー
エンジニアやプログラマーのような専門職も、経験値が高いほど対応力が広がるため、キャリア採用が求められやすい職種です。
経験があればスピード感をもって問題解決しやすくなり、コードを書く以外の顧客との対応などもスムーズに対応できるからです。
2. キャリア採用の基準は明確か?
キャリア採用を成功に導くためには、どのような人材を求めているのか基準を明確にすることが大切です。
なんとなくの直感で採用を決めてしまうと、現場レベルで「思っていた人材と違った・・・」というミスマッチを起こす可能性があるからです。
求職者に対しても「思っていた会社と違った・・・」というミスマッチを起こさないためには、次のようなことに注意する必要があります。
1. 募集要項の書き方
優秀な人材を確保するためには、募集要項には次のような待遇面をしっかりと明記しておきましょう。
優秀な人材ほど、仕事とプライベートの両立を大切にしているからです。
- 給与
- 福利厚生
- 休日休暇の内容
- 社宅・独身寮の有無
- 転勤時の別居手当
また、経営理念や事業紹介の他にも、職場の雰囲気や選考プロセスなどを記載して、興味を持ってもらえるような情報発信を心がけましょう。
もちろん、即戦力として求める「知識・経験・スキル・資格」の明記も重要です。
即戦力の設定次第で応募数は変化しますので、人気企業であれば高いレベルを設定することで人事の負担を減らすことができます。
2. 面接での選考
キャリア採用の面接を行う際には、どのようなタイプの求職者かを見極めることが大切です。
なぜなら求職者のタイプによっては、即戦力にならない可能性があるからです。
見極めたい求職者の3タイプとは、次のような短期間で転職を繰り返す人です。
- キャリアビルディングのために転職を繰り返す人
- 倒産や家庭の事情などで転職が重なった人
- 明確なビジョンをもたずに転職を繰り返す人
見極めたいのは、3のタイプの求職者です。
個人の中長期の目標や、価値観・志向性を確認すれば判断することができます。
前職の退職理由がネガティブであったり、他責する傾向があったり、論理的な回答でなかったり、回答に一貫性がない場合は、採用を見送ることが賢明だと言えます。
3. キャリア採用した人が満足できる仕事環境か?
キャリア採用で入社した人は今までの会社と比べる傾向があるため、満足できる仕事環境を整えることが大切です。
そのためには入社後にヒアリングを行うなどして、快適な環境かどうかを確認するようにしましょう。
長く在籍してほしい優秀な人材であれば、環境を用意することもキャリア採用を成功へ導くポイントです。
6.さいごに
キャリア採用と中途採用の使い分けを意識できれば、企業を成長させるための人材を確保しやすくなります。
企業が求める人物像を明確にして、メリット・デメリットにも目を向けて、どちらの採用が最適なのかを確認してみてください。
採用活動がうまく運ぶことを心から願っています。
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