パナソニックの人事に聞いた!中途採用のウラガワ 大手の安定感を求めた転職は入社後の活躍に黄信号?

2023年10月に「パナソニック ホールディングス」に名称を変え、カンパニー制から持株会社制に移行するパナソニック。

大きな変革期を迎えているパナソニックは、新体制において以下の通りに8つの事業会社とグループ会社に再編されます。

パナソニックホールディングス株式会社の事業再編

パナソニックと言えば家電メーカーのイメージが強いかもしれませんが、上記の通り多岐にわたるビジネスモデルを展開しています。

とりわけ、現在はエナジー事業領域であるEV(電気自動車)用新型電池の開発に投資を集中。米国のEVメーカー・テスラ向けに開発した大容量の新型リチウムイオン車載電池「4680の生産を目指し、体制を強化しています。

米国のEVメーカー・テスラ向けに開発した大容量の新型リチウムイオン車載電池「4680」

パナソニックは、2019年から21年にかけて3カ年計画で経営体質の強化を目標にさまざまな施策を講じてきました。

製品単品のみの訴求ではなく、サービスそのものを価値として提案する「コト訴求」に舵を切っています。

海外メーカーの台頭など、競争が激化する中で勝ち残るために変化を選んだパナソニック。

市場で成長を続けるうえで、「人材の確保が何よりも重要」と、採用部キャリア採用課長 の安達暁(あだち・ あきら)氏は言います

一方で、「大手の安定感だけを求めた転職では入社後の活躍に懸念が残る」と警鐘を鳴らします。

2000年代に入り、キャリア採用を積極的に進めてきたパナソニックが採用活動において抱える課題感や、中途採用で求める人材とはどんなものなのでしょうか。

入社後に活躍できる人材になるための心得を伺いました!

(聞き手:北川聖恵、フリーランスライター。毎日新聞記者、海外の出版社での編集を経てフリーに。ビジネス、教育など幅広い分野でインタビュー記事を手掛ける)

コミュニケーションとしての面接に変化

北川
北川
まず、コロナ禍で採用活動にどのような変化があったか教えてください。
やはり選考プロセスがすべてオンライン化になったことが一番大きかったですね。
安達氏
安達氏
北川
北川
具体的にどのような影響があったのですか?
直接的にコロナ禍の影響を受けた部門もありましたし、オンラインでの選考ということに慎重になる部分もあり四半期ほど活動が停滞した時期もありました。
安達氏
安達氏
北川
北川
その後、採用活動をオンライン化されたことで、特に苦労したり意識したりした点はありますか?
採用するうえで面接などで候補者が弊社にマッチしているかの見極めに関しては、特段大きな変化はありませんでした。

一方で、転職先候補として”選ばれる立場”に視点を変えたときに課題があると感じています。

安達氏
安達氏
北川
北川
たとえばどのような課題ですか?
いかに候補者に魅力を知ってもらえるか、画面越しでもパナソニックという会社のよさを伝えられるか、オフラインでのコミュニケーションとは違う難しさはありますね。
安達氏
安達氏
北川
北川
コミュニケーションの点では、キャリア採用では面接が占めるウェイトも大きいですよね。
面接では基本的に候補者1人に対して1時間をかけて、対面時は通常2回実施しています。その限られた時間で相互に見極める難しさは、新卒と比較しても大きいと理解しています。
安達氏
安達氏
北川
北川
面接をオンライン化したことの難しさや反対にメリットがあれば教えてください。
スケジュール調整がしやすくなり、1回の面接でより多くの面接員を確保できるようになりました。今後は、面接の回数を減らせるかもしれません。
安達氏
安達氏
北川
北川
なるほど。面接回数を減らすことにはどのようなメリットがあるのでしょう?
人材の獲得競争が激化しているなかで面接回数を減らして採用プロセスの速度を上げることは、途中で候補者が離脱するのを防ぐ利点があります。
安達氏
安達氏
北川
北川
デメリットはありますか?
1時間という面接時間は変わらず、面接員1人あたりの時間配分が減るため、見極めや惹きつけに必要なコミュニケーションを取るのに十分な時間が不足するのではという懸念が残ります。

 

面接は直接的なコミュニケーションの場ですので、その機会をどう生かすか。トレードオフの状況ではあるので、正直葛藤はありますね。

安達氏
安達氏

「モノカルチャー」を脱するためにキャリア採用を本格化

北川
北川
パナソニックのキャリア採用はいつ頃からスタートしたのですか?
弊社がキャリア採用を積極的に始めたのが2000年初頭です。当時、パナソニックは一言で表すと「モノカルチャー」な会社でした。”大卒の男性が終身雇用で働いている組織”だったのです。
安達氏
安達氏
北川
北川
歴史ある国内企業の典型的な特徴ですね。
そこで外部の多様な知見を持った人材に参画してもらうことで組織を活性化し、事業を加速させようと、「異質・異能な人材を増やせ」と号令をかけたことが、パナソニックにおけるキャリア採用の原点です。
安達氏
安達氏
北川
北川
なるほど。
パナソニックは、4月に持株会社化することで、会社として大きな局面を迎えます。

 

それぞれの事業会社が業界で「いかに勝つか」を考えたとき、必然的に内部人材だけでなく知見をもった外部人材を獲得することで、変革や事業の成長を促したいという思いは強まっていますし、キャリア採用の必要性は拡大していると実感します。

安達氏
安達氏
北川
北川
技術系やスタッフ系など、職種や領域などで外部人材に求めるものにどのような違いがありますか?
職種の違いというよりは、部門ごとにその都度のニーズによって求める外部知見は異なります。パナソニックは一つの会社としては大きな組織ですが、部門ごとで担当する事業、対峙している業界が異なるため、それぞれの部門で求める人材は変わってきます。
安達氏
安達氏
北川
北川
4月以降は8つの事業会社に分かれて、さらにグループ会社もありますね。

 

8つの事業会社のうち、4月1日からパナソニックの社名を引き継ぐ「くらし事業本部」だけでも、 さらに10の社・部門・事業ユニットにわかれており、パナソニックグループの事業の多様性がわかります。

それぞれの事業でビジネスの状況も異なります。事業を立ち上げたばかりでこれから成長するフェーズなのか、高シェアのチャンピオン事業なのか、これから拡大が必要なのかチャレンジャー事業なのか。
安達氏
安達氏
北川
北川
ええ。「モノ」から「コト」訴求への変化の流れも加速しています。その中で必要な人材とはどのようなものでしょうか。
確かにメーカーとしてのビジネスも当然、強化が必要ですが、「モノ」から「コト」へシフトするためのサービス事業を拡大するにあたり、特にその分野では外部知見の必要性はさらに高まっています。

 

モノを開発し、製造販売するという従来のビジネスプロセスから、サービスを企画し拡大しながら事業を進めるという動き方に移行しているのですが、前者と後者では必要なケイパビリティ(個人的才能、組織的能力)が違います。その知見がないのなら外部から獲得するしかありません。

安達氏
安達氏
北川
北川
その都度のニーズに見合った人材を探されるということですね。中途採用に年齢制限などは設けていらっしゃいますか。
制限は設けてはいませんが、採用の実績としてはおよそ20代〜45才くらいまでで(キャリア採用の)大部分を占めている状況ではあります。
安達氏
安達氏
北川
北川
そうなのですね。
しかし、組織を変えるために必要な知見であれば、外部のプロフェッショナルな人材を迎えることも増えてきています。実際に50代で入社された人もいます。

年齢ではなく「入社後に価値を提供していただけるか」という観点で採用に当たっています。

安達氏
安達氏

 

 

「どこに転職したいか」ではなく「転職で何を実現したいか」を明確に!

北川
北川
パナソニックでその人の持つ価値が発揮できるかどうかをどのように見極めていらっしゃいますか。
キャリア採用ですので募集ポストで求める職務遂行要件を満たしているかどうかはもちろん大事ですが、それに加えて「なぜ転職をしたいか」「転職によって何を実現したいと考えているか」といった動機や志向も重要だと考えています。

安達氏
安達氏
北川
北川
なぜ転職するのか、なぜパナソニックか、ということですか?
はい。パナソニックは企業として認知はいただいていますが、その認知だけで転職先と考えていただくのは当社としてもよくないと考えています。
安達氏
安達氏
北川
北川
それはなぜでしょう?
会社としての認知だけではなく、募集ポストや携わる事業に対して理解いただいているかどうかで入社後に活躍いただけるかが異なるように感じています。
安達氏
安達氏
北川
北川
そのような実例があったのですね。
パナソニックでは中途採用で転職してこられた方のコンディションを1年間パルスサーベイによって追跡していますが、その結果においても活躍される方もいれば、苦労されている方もいるように感じています。
安達氏
安達氏
北川
北川
両者の違いは何でしょう?
先述の通り、会社の中でも部門によって仕事内容は大きく異なりますし、そのなかで認知度だけに魅力を感じて入社されると期待していた仕事との齟齬(そご)が生じて思うように力を発揮できずに悩む人も少なくありません。

 

ホールディングスになったことで事業会社ごとの業務の差別化はさらに進むので、その点は我々も注意しなければならないと感じています。

 

反対に入社後のビジョンを明確にして入社した方は、「多少のすり合わせは覚悟してきた。現状を打破するために自分が採用されたと理解している」とおっしゃっており、実際にアクションにつなげられています。

安達氏
安達氏
北川
北川
社名の前に、「自分がなし得たいこと」とポストがマッチするかを見極められているかが大事ですね。
はい。面接ではとりわけその点についてお話を伺う傾向にあります。

今は転職が一般的になってきているからこそ、ご自身の今後のキャリアについて今一度掘り下げていただき、並行して我々としてもミスマッチを防ぐよう努力したいと考えています。

理想論かもしれないですが、何かしらのビジョンがあり、「現職だとその実現が難しい、だからこそ次のキャリアを作るために転職をする」というのが長い目でみて最もスムーズかなと思います。

そこでパナソニックがマッチするかどうかが大切だと感じます。

安達氏
安達氏
北川
北川
本人の目的意識以外で入社後のコンディションの低下や早期離職につながる要因はありますか?
面接時の業務内容に対するコンセンサスにギャップがあるケースもありました。
安達氏
安達氏
北川
北川
仕事の内容について認識が合わないということですね。
ええ。こちらが「この仕事がお願いできそうだ」と想定していた仕事と、候補者の「こういう仕事をするものだと思っていた」が食い違ってしまったんです。
安達氏
安達氏
北川
北川
それは問題ですね。
キャリア採用は新卒採用と違い、仕事内容のマッチングまでがセットなので、そこで意思疎通が図れていなかったというのは由々しき問題でしたし、大きな反省点でした。
安達氏
安達氏
北川
北川
仕事内容に対する意思疎通の課題に対して、どのような改善策を取られたのですか?
選考プロセスの中でコミュニケーションの機会を増やしました。
安達氏
安達氏
北川
北川
たとえば?
通常の面接に加えて、「オファー面談」を追加したのです。

オファー面談ではこちらからの「ぜひご入社いただきたい」という意向を示した後、改めて仕事内容と期待させていただいている点、給与などの処遇について提示するクロージングの場面を設けるようにしました。これにより、業務内容に関する意思疎通の問題は大きく改善しました。

安達氏
安達氏

第2新卒の採用について

北川
北川
第2新卒の採用について現状を教えてください。
第二新卒をどう捉えるかにもよりますが、22年度はかなりキャリア採用を拡大しますので、その中で広く対象となる方との接点を作っていきたいと考えています。
安達氏
安達氏
北川
北川
第2新卒の分類はあいまいな面があります。
あくまでも当社のキャリア採用においては、未経験者の方のジョブリセットとしてお迎えできるかは難しいと考えています。一方、年齢や卒業後2年以内などとシンプルに数字でとらえるなら、お持ちの経験を活かしていただけるポジションで選考するということであれば拡大して進めていきたいと考えています。
安達氏
安達氏

女性活躍推進について

北川
北川
続いて女性活躍推進について教えてください。妊娠出産などライフイベントをきっかけにキャリアから離れた女性が採用される事例はありますか?
6年勤務した後、ご家族の海外赴任と育児による6年間のブランクを経て以前の職場に復帰し、2年後にパナソニックに転職されたというケースはあります。
安達氏
安達氏
北川
北川
今後も拡大される予定ですか?
それはもちろんです。女性の活躍推進については弊社としても重要な取組であると考えています。
安達氏
安達氏
北川
北川
社内での受け止められ方はいかがですか?
女性が女性らしく当社でのキャリアを描き、実現できるように責任者から考え方を変えるのが一歩目だと捉えています。

女性特有のライフイベントを抱えても活躍、昇進してもらえる環境を整備するのが自分の仕事だと考えている責任者がほとんどの状況になっています。以前に比べると本当に大きな意識改革が起きています。

安達氏
安達氏
北川
北川
その意識改革が起きたのはどのような背景があったのですか?
それぞれ責任者が「多様性を活かすことを重要な経営戦略」と位置付けていることが大きいでしょうね。

全社的としてDEI(Diversity, Equity & Inclusion)のポリシーを掲げ、多様な一人ひとりを尊重するということのメッセ―ジを強く発信していることもその背景にあると思います。

安達氏
安達氏
北川
北川
人材の多様性に欠けていたせいで競争力が弱まっている、という認識がおありだということですね。
ええ。全社的にDiversity&Inclusionの観点で経営戦略に落とし込んでもらうという取り組みもありましたし、ビジネス的に勝てている状況ではないからこそ、古き悪しき環境を打破しようとしたときに自ずと必要性を感じたのだと思います。
安達氏
安達氏
北川
北川
女性活躍推進に関する制度についてはいかがですか。
一般的な企業よりも充実した制度自体はあるので、どう運用するかについて今後も検討していきます。人事としては、運用にあたって障壁となるunconcious bias(無意識の偏見)を取り払う取り組みを積極的に行っています。
安達氏
安達氏
北川
北川
最後にCareer Theory読者に向けてメッセージをお願いいたします。
パナソニックは家電の会社と捉えられがちですが、家電だけでなく、デバイス、電池、自動車向け領域など幅広く展開しています。グローバル展開もする中で人々の暮らし領域を含めて貢献できるフィールドが多岐にわたっています。
安達氏
安達氏
2023年はかなりの規模で採用活動を実施します。「取らない職種がないほど」の規模感ですので、みなさまのキャリア選択の中に弊社の事業がマッチする可能性は十分あると考えています。
安達氏
安達氏
今後も一般的に認知されていない部分を含めてしっかりお届けしようと思っていますので、ぜひ、弊社について知っていただき興味をもっていただきたいです。
安達氏
安達氏

まとめ

2023年10月以降、大規模なキャリア採用を実施するというパナソニック。転職を希望する人は、多岐にわたる事業内容をしっかりと吟味して自分がやりたい仕事ができるのか、なぜパナソニックを選ぶのかを明確にして挑みましょう。

また、採用通知が届いた後も、入社後に希望する仕事ができるのか収入など条件面で意見の相違はないか、オファー面談の機会を生かしてください。

転職のゴールは入社することではなく、入社後の活躍であることを認識していれば、キャリア選択に失敗することはないでしょう。

「自分のやりたい仕事はやはり大企業でしかなしえない」と、強く思えたのならぜひ大企業の転職におすすめの転職エージェントに相談してみましょう。経験豊富なコンサルタントとビジョンを共有すれば、希望の企業に採用される可能性もぐんとアップするはずです。

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