今こそ転職に有利な時代!敏腕キャリアコンサルタントに聞く”成功する女性の転職”

森本千賀子氏

1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。1993年リクルート人材センター(現リクルート)に入社。3万人超の転職希望者と接点を持ち、2000人超の転職に携わる。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、受賞歴は30回超。
2017年3月に株式会社morich設立。エグゼクティブ層の採用支援を中心に、転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを幅広く提案、外部パートナー企業とのアライアンス推進など、活動領域も広げている。

今、必要とされる「リスキリング」の考え方とは? コロナ禍前後で女性の中途採用の現場はどう変化したのか? 25年間リクルートの人材領域でキャリアコンサルタントとして活躍し、現在は企業と応募者の両者に転職・中途採用支援を行いつつ、複数の企業で社外取締役や顧問、そしてソーシャル分野での理事、また静岡ラグビーフットボール協会理事など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現しながら、2人の男の子の母でもある森本千賀子氏ニューノーマル時代の女性の働き方についてお話を伺いました。

(聞き手:北川聖恵、フリーランスライター。毎日新聞記者、海外の出版社での編集を経てフリーに。
『日経クロストレンド』『日経クロスウーマン』を始めとした多様な媒体でビジネス、教育など幅広い分野でのインタビュー記事を手掛ける)

DX拡大で広まる「リスキリング」

北川
北川
コロナ禍で企業を取り巻く環境も大きく変化したと思います。コロナ前後で各社のビジネス戦略に変化はありましたか?
まずキーワードは「リスキリング(reskilling)」です。
森本氏
森本氏
リスキリング
新しい職業に就いたり、現在の職業で必要なスキルの大幅な変化に適応したりするため、必要なスキルを獲得する/させること。いわゆる、「学び直し」。個人レベルで新しく資格を取得したり、スクールに通い直したりすることもあれば、企業が従業員に新しいスキルを身に付けさせ、人材の価値を高める取り組みに力を入れたりする。背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)化の急加速があり、新しいスキルとは、デジタルリテラシーの強化につながるIT技術であることが多い
北川
北川
米国では通信大手のAT&Tが2013年にリスキリングプログラムを開始し、その後アマゾンやウォルマートなど大手が相次いで施策を講じています。コロナ禍では、失業者に向けてMicrosoft社が無償でリスキリング用教育コンテンツを提供するなどしており、21年以降は日本でも注目度が高まっていますね。
はい。DX(デジタルトランスフォーメーション)化が加速する中、攻守ともに戦略の要として各社が注力しています。「攻め」は対外的なビジネス戦略で、「守り」は社内的な環境の改善を指します。
森本氏
森本氏
「攻め」の文脈では、新規ビジネスサービスの創出ですね。コロナ禍においてさまざまな場面でパラダイムシフトが起きており、従来のビジネス戦略の延長線上だと勝てないということで、例えば自前でのeコマース化の展開やマーケティングにおいてもデジタル活用を急いでいます。
森本氏
森本氏
北川
北川
ええ。
「守り」は、生産性の向上でのDX活用です。テレワークの推進がその主たるものですが、サービスをクラウド上で提供したり、オンライン決済を可能にしたりと変化は目覚ましいですね。
森本氏
森本氏
北川
北川
全面的なDX化に向けて、社員を再教育しようという動きが活発化しているということですね。
外から人材を迎えるにもIT人材の争奪が激化する中で、既存社員の育成が主なテーマになっています。ただし、集団型の講習を実施するのではなく、あくまで個々人に必要な学びを必要なタイミングで戦略的に取り組むことで成果に変えていく、という流れになっています。
森本氏
森本氏
北川
北川
なるほど。
タレントマネジメントツールを用いて個人のスキルやキャリアが可視化できるようになったので、それが可能になりました。
森本氏
森本氏
北川
北川
個人ごとに異なる課題を見える化する目的にもDXが活用されているのですね。一方で、外部からデジタル人材を採用するという観点ではいかがでしょうか。
社員の育成といっても、やはり育つには時間を要します。もちろん、外部から新たにデジタルに精通した人材を採用する動きもこれまで以上に活発になっています。
森本氏
森本氏
北川
北川
そうなのですね。
行政も「IT導入補助金」や融資の緩和(無担保・低金利)など、DX化に向けて財務的な支援を行っており、資金調達が容易になっています。

そのため、今後も人材確保への投資が積極的になると思います。

森本氏
森本氏
北川
北川
社内のリスキリングへの取り組み以外にも、個人で取り組めることはありますか?
もちろんです。販売員やキャビンアテンダント、外食産業の従業員など、コロナ禍で雇用が不安定な中、ジョブチェンジを目指してリスキリングに取り組む人は増えています
森本氏
森本氏

リモートワークの普及で子育て中の女性にも正社員の道が開けてきた

北川
北川
コロナ禍以前では、男女の雇用機会の格差は縮小しつつあったのですが、今は再び差が開き、とくに派遣の更新がされなかったり、解雇にあったりした女性が再就職するには厳しい状況のようです。
北川
北川
働き口が見つからないことで、不本意な就職を選択する女性も急増しています。不安定な非正規雇用が続いていたり、子育てなどでキャリアが中断してしまったり、シングルマザーであったりなど、就職に不利な女性が少しでもよい就職をするためのアドバイスがあれば教えてください。

コロナ禍で就職口がなく不本意な就職をしたり、
パートアルバイトをいくつも掛け持ちするなどの時間を切り売りしながら収入を確保したりする女性も

少子化で労働人口が減ってきている中で、女性の活躍推進は大きな課題でした。しかし、ビジネス社会は依然として男性中心のため、柔軟な働き方への理解が得られずなかなか進まなかったのも事実です。
森本氏
森本氏
女性活躍という言葉だけが先行してしまい、中身がともなわない会社もまだ多いですし、同じ評価なら男性を採用する、という姿勢は特に大手企業ではなかなか変わらないと感じています。
森本氏
森本氏
北川
北川
女性が社会で活躍することを阻む大きな要因には、日本社会に依然として根強く残っている育児に関する男女の役割分担意識が挙げられると思います。
その通りですね。
森本氏
森本氏
北川
北川
徐々に「子育ては夫婦でするもの」という考え方は浸透してきており、仕事と育児を両立する大変さへの共感や理解は以前よりは進んでいるとは感じます。

実際に、ユニセフの調査では男性の育児休暇取得可能日数は、41か国中日本が世界一です。

経済協力開発機構(OECD)と 欧州連合(EU)のいずれかに加盟する国41カ国を対象にユニセフが実施した「男性が有給で取得できる育児休暇取得期間」に対する調査結果をもとにグラフ化

北川
北川
一方で、実際の取得率はいまだ10%程度です。子育てに積極的に関わりたいという男性も増えていますが周囲の理解が得られなかったり、そもそも取得自体に罪悪感があったりと社会全体としての浸透度は低いと感じます。
そうですね。結局は、女性がフルタイムで働くことを断念したり、子育てによる仕事の中断で肩身の狭い思いをする中でキャリアアップをあきらめたり、というケースが圧倒的でした。
森本氏
森本氏

子育ては母親にしわ寄せが来がち。ワンオペ育児との両立の厳しさでキャリアをあきらめる人も多かったが・・・

一方で、コロナ禍でリモートワークが急速に広まり、これまでフルタイム勤務をあきらめていた人たちでも働きやすい環境に大きく変化しました。
森本氏
森本氏
北川
北川
エッセンシャルワーカーなど出勤を前提とする職種以外では、かなりリモートワークが普及しましたね。
ええ。以前は消極的判断で非正規雇用に就いていたけれど、リモートで働けるならとフルタイムの正社員でキャリアアップを目指そうという女性が実際に増えています
森本氏
森本氏
北川
北川
以前はたとえば子どもの体調不良など、育児中の突発的なトラブルは退職の大きなきっかけになっていました。私自身は母の闘病がきっかけで退職したのですが、子どもが生まれた後も子育てで身動きがとりづらく仕事は制限していました。
北川
北川
リモートワークが普及したおかげでオンライン取材が可能になったので、子どもが体調不良でもそばについていられるようになり、精神的な負担はかなり軽減しました。
その側面はとても大きいと思います。
森本氏
森本氏

リモートワークの普及で子育て中の働き方は少し緩和された

女性のキャリアを妨げるインポスター症候群とは

一方、まだ課題は残っています。
森本氏
森本氏
北川
北川
それは何でしょうか。
相変わらずマネジメント職を目指す女性が圧倒的に少ないという点です。
森本氏
森本氏
北川
北川
出世欲が低い、ということですか。どのような背景があるのでしょうか?
企業では男性主体の運営が長く続いているため、女性管理職のロールモデルが非常に少ない。そのため、一歩踏み出すのにとてもストレスがかかってしまうのです。
森本氏
森本氏
北川
北川
そうなのですね。
「インポスター症候群」といって、評価をされているにもかかわらず自分を過小評価してしまう女性がとても多い。
森本氏
森本氏
北川
北川
企業としてはどのような対策をするべきでしょうか。
まずはロールモデルをつくることです。目指す姿を現実化すれば「私にもできる」と思えるようになる。そのためにも中途採用で実績のある女性を確保するのが大切ですね。
森本氏
森本氏
北川
北川
なるほど。ビジネスパーソンとして成功している女性が目の前にいると、自分のキャリアにも希望を持つ人が増えるかもしれないですね。
ええ。一方で、やはり女性のキャリアパスにおいて出産前後の時期というのは体力的にも時間的にも制約が大きく、”ハードル”になりがちです。
森本氏
森本氏
北川
北川
出産・育児のため30代での就業率が下がる女性特有の「M字カーブ」の傾向は、コロナ禍における再就職の難しさでまた目立つようになりました。
育児と仕事の両立でひるんでしまって仕事を辞めたり、キャリアを断念する人が多いのです。そこで、私の提案としては出産前に前倒して責任のある仕事を任せ、「リーダーの疑似体験」をさせることです。
森本氏
森本氏
北川
北川
具体的にどのような内容ですか?
組織横断のプロジェクトマネジャーでもいいですし、数人のチームを率いさせるでも、新入社員の教育担当でもいいです。とにかくリーダーシップを経験させて、「大変だけどやりがいがあるし、私にもできる」という”自己信頼貯金”をなるべくため込んでもらうのです。
森本氏
森本氏

若いうちから責任あるポジションを任せて「リーダーの疑似体験」をさせるべき

北川
北川
自信を持たせるということですね。
はい。子育てをしながら、いきなり責任の重い仕事を任されると初めてばかりで二重のハードルになってしまいます。でも、一度経験しているとそのハードルは下がりやすいです。
森本氏
森本氏
北川
北川
女性が働きやすい環境を探している求職者としては、応募先を決める際に社歴が浅くても責任あるポジションを任せているか、を基準にするのもいいですね。
そうですね。ほかには、その企業のトップが発信している内容や、(女性活躍推進施策が評価される)「えるぼし」認定を受けているかどうか、など可視化できるものから見つけてみるのが良いと思います。また、人事や採用担当者が自分の口でその企業の施策を語れるか、もポイントです。
森本氏
森本氏
編集部注
「えるぼし認定」とは、「女性活躍推進法」に基いて一定の基準を満たしており、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業を厚生労働大臣が認定する制度のこと

女性こそIT企業&営業職がおすすめ?!

北川
北川
さきほど、IT人材の需要は高まっているという話がありましたが、女性の再就職先として選択肢に入れるのはいかがでしょうか。
とてもいいと思います。現在、企業人事が非常にひっ迫感を感じている求人の大半がIT人材(エンジニア)です。そして、エンジニアの女性比率は10~20%ほど。他の理系職種も同じくらいです。
森本氏
森本氏
北川
北川
ほとんどが男性ですね。
ええ。そのため、女性エンジニアは希少価値が高いと言えます。
森本氏
森本氏
北川
北川
未経験でも、リスキリングでプログラミングやIT技術を取得してエンジニアを目指すという選択肢は有効かもしれないですね。
エンジニアはかなりおすすめです。
森本氏
森本氏
北川
北川
そうなのですね。
理系職種ではマイノリティーである女性を積極採用している、ということをブランドにするためIT各社は力を注いでいます。コロナ禍以前からテレワークができる環境の整備に率先して取り組んでいたり、女性が働きやすいサポートが充実していたりしています。
森本氏
森本氏
北川
北川
その実情を知ればリスキリングのモチベーションが高まりそうです。
エンジニアだけでなく、実は営業職もポテンシャルが高い職種です。
森本氏
森本氏
北川
北川
営業は、足で稼ぐイメージがあり子育て中にはハードルが高そうなのですが・・・
実は営業職もほぼリモートワークの環境が整い、営業はもう足で稼ぐ時代ではなくなってきています。

「顧客のニーズ実現のための課題抽出と、それに向けた解決策を引き出す」というコンサル的要素が強まってきていて、ほぼオンライン商談になっています。そこで、現場で培ってきた経験値が生きてくるので、女性が第2のキャリアをスタートするにはとても適しているんですよ。今後、旬の職種になるんじゃないでしょうか。

森本氏
森本氏
北川
北川
コロナ禍でIT化が加速したことで、古いイメージは払拭されてきているのですね。
「インサイドセールス」や「カスタマーサクセス」といった新しい分野での需要が高まってきているので、女性の感性がますます必要とされます。
森本氏
森本氏
北川
北川
それぞれどのような仕事なのでしょうか?
「インサイドセールス」は見込み客に対して電話や電子メール、チャットなどでコミュニケーションを取り、ニーズを探りつつ関係を構築する営業職のこと。

「カスタマーサクセス」は、契約した顧客の目的達成に向けて商品・サービスをより効果的に活用できるように支援する仕事です。

森本氏
森本氏

女性には営業職もおすすめ。オンライン商談が導入されたり、新たな分野の需要が高まったりしている

北川
北川
最後に、Career Theoryの女性読者に向けてメッセージをお願いします。
今は、企業のマネジメントスタイルは従来の「ついてこい」という男性性の強いものから、従来ビジネスの場では度外視されがちだった共感や寄り添いといった女性の感性により近いものが是とされる時代です。今後、さらにそうなっていくでしょう。
森本氏
森本氏
これまで女性性を押し殺してきた女性であれば、まさにそのキャラクターこそが生かせる時代なので、女性にとってはチャンスが転がっていると言えます。
森本氏
森本氏
ブランクが長いから、年齢的にも難しいから、とあきらめていた扉が開かれる可能性も十分あります。でも動かないと扉は開きません。シングルマザーに関しても、責任感やコミットメント力の強さから企業側は最近、一番ポテンシャルがあるとみている人材です。
森本氏
森本氏
迷ったらやってみる、という姿勢が何よりも大切です。
森本氏
森本氏

まとめ

ビジネスパーソン・妻・母としてマルチで活躍されている森本さんの言葉はとても力強く、キャリアに悩む女性たちの背中を押してくれます。リモートワークが進んだ今だからこそ、これまで就職やキャリア続行に不利だった女性たちにも、可能性が開かれていると森本さんは言います。

もしブランクが長くてもリスキリングで新たな技術を習得したり、これまでの経験を営業職で生かしたり、キャリアを続ける選択肢はあります。そして何より大切なのは、女性活躍推進の環境が整った会社を見つけること。

とはいえ、自分一人で見つけるには限界があります。プロのキャリアアドバイザーは、さまざまなライフイベントやライフプランに合わせて最適な企業を探してくれます。

現状で不足しているスキルを指摘してくれることもあり、リスキリングの目標が明確にしやすいという利点もあります。女性の転職に強いエージェントを見つけたい人は以下のページを参考にしてみてください。

参考記事:
【女性の転職】転職エージェントおすすめ評判ランキング|職種年代別に比較して厳選

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