看護師の生涯年収は2億円って本当?一生安泰と言われる看護師のお金事情をシミュレーション

「看護師は生涯安定して稼ぎ続けられる?」
「高給取りといわれるけど本当?」

世間的に景気に左右されにくく高給取りのイメージがある看護師ですが、実際はどうなのかご存じでしょうか。

結論からお伝えすると、看護師の生涯年収は約2億円です。これは全職種の平均をやや下回る数値ではありますが、看護師は生涯にわたって安定した収入を得られる仕事と言えます。

今回は、現役看護師の筆者が看護師の生涯年収について詳しく解説します。この記事を読めば、看護師の気になる給与事情がわかります。

  1. 看護師の生涯年収は2億円!これって高い?低い?
  2. 看護師の生涯年収が高い職場ってどこ?モデルケースをシミュレーション
  3. 生涯年収を上げるなら「長く働き続けること」が何より大事

当記事は令和2年賃金構造統計基本調査のデータをもとに解説します。

1.看護師の生涯年収は2億円!これって高い?低い?

令和2年度の賃金構造統計調査より算出した看護師の平均年収は492万円でした。この数値をもとに計算した看護師の生涯年収は、2億1,156万円です。

<生涯年収とは>

生涯年収とは、労働者が一生のうちに得られる収入のことを指します。
生涯年収の計算方法は様々ですが、この記事では22歳〜64歳で定年を迎えるまでの43年間を平均年収で働き続けたと仮定して算出した数値を生涯年収として扱います。

以下の表に全職種・男女の平均とその差額をまとめました。

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年収生涯年収
(概算)
生涯年収の差額
(看護師の生涯年収を基準とし
多い場合を+、少ない場合を-)
看護師492万円2億1,156万円
全体平均522万円2億2,446万円+1,290万円
男性平均571万円2億4553万円+3,397万円
女性平均419万円1億8,107万円-3,049万円

(令和2年賃金構造統計基本調査より算出)

※全職種・男女の平均年収は正規雇用で働き続けた場合の数値

看護師の生涯年収は、他の仕事とそれほど大きく違いません。細かく見ると、男性平均よりはやや低く、女性よりはやや高い水準です。

1-1.【女性が多い他職種と比較】

まずは「看護師」と「女性が多い職種」の生涯年収をまとめました。女性が多い職種と比較すると、看護師は生涯年収が高く、最も差が大きいサービス業とは、6,000万円ほどの開きが見られます。

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年収生涯年収
(概算)
生涯年収の差額
(看護師の生涯年収を基準とし
多い場合を+、少ない場合を-)
看護師492万円2億1,156万円
保育士375万円1億6,125万円-5,031万円
事務職467万円2億81万円-1,075万円
販売員451万円1億9,393万円-1,763万円
サービス業349万円1億5,007万円-6,149万円

(令和2年賃金構造統計基本調査より算出)

看護師の方が生涯年収が高くなる要因として以下の3点が考えられます。

  • 専門性が高く国家資格の取得が必要で、基本給に資格手当がつく
  • 夜勤をはじめ労働環境が過酷で、夜勤手当や危険手当がつく職場も多い
  • 人材が常に不足している

このような背景から、看護師は女性の仕事の中ではかなり稼ぎやすいと言えます。

1-2.【他の医療職と比較】

看護師の生涯年収を「他の医療職9種」と比較すると、中間辺りに位置することが分かります。医療職という区分ではそれほど突出しているわけではありません。

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順位職業年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
1位助産師570万円2億4,510万円+3,354万円
2位薬剤師565万円2億4,295万円+3,139万円
3位臨床検査技師493万円2億1,199万円+43万円
4位看護師492万円2億1,156万円
5位保健師476万円2億468万円-688万円
6位理学療法士・作業療法士・
言語聴覚士・視能訓練士
419万円1億8,017万円-3,049万円
7位准看護師413万円1億7,759万円-3,397万円
8位ケアマネージャー399万円1億7,157万円-3,999万円
9位歯科衛生士356万円1億5308万円-5,848万円

(令和2年賃金構造統計基本調査より)

看護師よりも順位が高い3つの職種は、

  • より専門性が高く、生命に関わる職種である
  • 資格取得の難易度が高い
  • 職場によっては夜勤がある

という点が共通しており、これらが生涯年収を上げる要因と考えられます。

また、看護師よりも順位が低い職種も、准看護師以外は国家資格が必要であり、決して簡単に資格を取れる訳ではありませんが、これらの職種は夜勤がなく手当がつかないため生涯年収が低くなっていることが予想されます。

補足:同じ看護職でも生涯年収に差がある

同じ看護職である准看護師・保健師・助産師も、資格取得の難易度や働き方によって生涯年収に差があります。

職業年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
助産師570万円2億4,510万円+3,354万円
看護師492万円2億1,156万円
保健師476万円2億468万円-688万円
准看護師413万円1億7,759万円-3,397万円
助産師

通常の看護師業務に加えて母子のケア・正常分娩の介助をおこなう助産師の生涯年収は、看護師を3,500万円ほど上回っています。

助産師になるには、看護師資格に加えて大学院や養成校で専門課程を終える必要があり資格取得の難易度は高めです。

業務もより高度で専門的なスキルを求められるため、看護師よりも基本給・資格手当ともに高めに設定されています。

病院によっては分娩介助手当がつくこともあり、こういった手当が充実していることも生涯年収に影響していると考えられるでしょう。

保健師

行政や企業で働く保健師の生涯年収は、看護師を688万円下回っています。

保健師になるには看護師資格に加えて大学・養成校での専門課程の履修が必要があるため、看護師よりも資格取得の難易度は高めです。

数値だけを見ると、資格取得の難易度に対して生涯年収が低く感じるかもしれませんが、夜勤手当がないにもかかわらず看護師と生涯年収がそれほど変わらないと考えれば、保健師の生涯年収もかなり高い部類であることが分かります。

准看護師

実際の業務内容は看護師とほとんど変わりませんが、生涯年収は看護師を3000万円ほど下回っています。

准看護師は、医師や正看護師の指示のもと業務をおこなうことになっているため、リーダー職や管理職につけません。

正看護師と資格手当に差があることや管理職・リーダーへのキャリアアップが出来ないことが生涯年収の差につながっていると考えられます。

准看護師の業務と収入が見合わないと感じるのであれば、養成課程を修了し国家試験を受け正看護師の資格を取得するというのも生涯年収をアップさせる方法の1つです。

1-3.男性看護師の生涯年収

男性看護師の生涯年収(概算)は、2億1,758万円でした。わずかではありますが、女性と比べて高めの水準です。

年収生涯年収(概算)
男性看護師506万円2億1,758万円
女性看護師490万円2億1,070万円

(令和2年賃金構造統計基本調査より算出)

女性の場合は妊娠・出産や育児によってキャリアが途絶えたり、夜勤ができなくなったりすることもあります。

このようなことが生涯年収に男女差を生んでいると考えられます。

2.看護師の生涯年収が高い職場ってどこ?モデルケースをシミュレーション

看護師の生涯年収は、全職種(サラリーマンなど)よりも低めでしたが、実は働き方次第でそれを上回ることもできます。

ここでは、看護師の職場別に生涯年収を5つのモデルケースでシミュレーションしていきます。

年収の高さや働きやすさなど、それぞれの職場で働くメリット・デメリットもあげています。

それでは、1つずつ詳しく見ていきましょう。

2-1.国立病院

国立病院で働く看護師の生涯年収を概算すると、全体平均より2,000万円ほど高いことが分かります。

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年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
(看護師の生涯年収を基準とし
多い場合を+、少ない場合を-)
国立病院540万円2億3,220万円+2,064万円

(独立行政法人国立病院機構の資料より算出)

国立病院は現在は独立行政法人化されていますが、元々国営だった名残で、現在も公務員の様な手厚い福利厚生と安定した給与を得られます。

〈メリット〉

  • 託児所併設・時短制度などにより子育てと両立しやすい
  • 全国に病院があり転勤・異動が可能なので、配偶者の転勤など家庭の事情にも対応しやすい

〈デメリット〉

  • 高収入・好待遇のため人気が高い。全国144箇所あるが、少ないところは県に1つという地域もあり就職難易度は高め。
  • 公務員ではないものの、副業を禁止している病院が多い。

2-2.公立病院

公立病院で働く看護師の生涯年収を概算すると、全体より3,800万円ほど高いことがわかります。

年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
公立病院580万円2億4,940万円+3,784万円

(令和2年地方公務員給与実態調査の結果より算出)

公立病院看護師は、地方公務員に該当するため安定した給与を得られます。

〈メリット〉

  • 自治体が税金で運営しているため、民間病院のように給与が経営状態に左右されることなく安定している。
  • 年功序列で給与が上がっていくので、長く勤めるほど生涯年収は上がる。

〈デメリット〉

  • 税金で運営しているため設備が古い病院が多い。
  • 年功序列ゆえに、勤務開始時の給料は低い。
  • また、実力によって大幅に給料アップすることは難しい。

2-3.大学病院

大学病院で働く看護師の生涯年収を概算すると、全体より最大4,600万円ほど高いことがわかります。

年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
大学病院500~600万円2億1,500~2億5,800万円+344~4,644万円

具体的な数値の算出は難しく収入に幅があるものの、大学病院は、看護師全体の平均より多く収入を得られる職場の一つです。

収入の高さの背景としては、

  • 高度医療を提供しているため、診療報酬が高くそれが看護師に給与として還元されている
  • 人員配置基準が高く夜勤回数が多い

などが考えられます。

また、一般的に国公立より私立大学病院のほうが年収が高い傾向にあります。

〈メリット〉

  • クリニカルラダーを採用している病院が多く、実力次第で収入の大幅アップも見込める

〈デメリット〉

  • 重症度が高い患者さんも多く、それに伴って業務量が多いため、体力的・精神的にもハード。残業や夜勤も多く家庭との両立は難しい。
  • 上記の理由から結婚や出産を機に辞めてしまう看護師が多く、家庭と両立しながら長く勤務しているロールモデルを見つけるのが難しい。

2-4.介護施設

介護施設で働く看護師の生涯年収を概算すると、デイサービス以外の施設が、全体より1,000万円ほど高いことがわかります。

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年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
(看護師の生涯年収を基準とし
多い場合を+、少ない場合を-)
介護老人保健施設(老健)539万円2億3,177万円+2,021万円
特別養護老人ホーム(特養)507万円2億1,801万円+645万円
有料老人ホーム514万円2億2,102万円+946万円
デイサービス425万円1億8,275万円-2,881万円

(令和2年介護事業経営実態調査結果より算出)

これは、病院よりも介護施設で働く看護師の方が母数が少なく、施設管理者など管理職に就いている看護師の割合が高いことも関連していると考えられます。

また、それぞれの施設の生涯年収を見てみると、夜勤がある老健が最も高く、次いでオンコール対応がある特養と有料老人ホーム、日勤のみのデイサービスという順になっています。

このことから、介護施設であっても夜勤手当は収入を大きく左右する要素であることがわかります。

〈メリット〉

  • 病棟勤務よりも落ち着いた雰囲気の中で働ける上、給与水準も高い。
  • 介護ケアは介護職員がおこなうので、体力面の負担が比較的少なく、年齢を重ねてからも続けやすい。
  • 病棟と比較すると残業は少なく、施設によっては夜勤がないので家庭との両立がしやすい。

〈デメリット〉

  • 看護師自体が少ないため、管理者など責任の重い立場を任されるケースもある。
  • 利用者の体調や事故対応など介護職から判断を求められることも多く、老年看護領域において幅広い知識・経験が必要。

2-5.クリニック

クリニックで働く看護師の生涯年収を概算すると、全体より5,000万円ほど低いことがわかります。

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年収生涯年収(概算)生涯年収の差額
(看護師の生涯年収を基準とし
多い場合を+、少ない場合を-)
クリニック370万円1億5,910万円-5,246万円

(令和2年賃金構造基本統計調査より算出)

クリニックの看護師の年収の低さは、病院勤務と比較し各種手当の設定が少ないことや夜勤がないことが関係していると考えられます。

〈メリット〉1

  • 夜勤がない・残業が少なく、家庭と両立しやすいため、長く続けやすい。
  • 医師の診療の補助がメインの業務となるため、介護的なケアが少なく体力面での負担が少ない。

〈デメリット〉

  • 少人数で回している所が多く、相性が悪い人がいると人間関係に苦労する。
  • 社会保険制度が整っていないクリニックもある。
  • 夜勤手当など各種手当が病院より少ない。

補足:就業場所による違い

就業している人数が多く規模が大きい病院ほど、生涯年収が高くなります。

年収生涯年収(概算)
10人~99人463万円1億9,909万円
100人~999人480万円2億640万円
1000人以上522万円2億2,446万円

(令和2年賃金構造基本統計調査より算出)

ただ、規模が大きい病院ほど高度医療を提供していたり、地域の中核医療を担う立場であったりすることが多く業務はハードになる傾向はあります。

また、都市部のほうがより高収入になりやすいです。以下は、看護師の平均年収・生涯年収を都道府県別で高い順に並べた時の上位5県のランキングです。

上位5つ中3つが首都圏という結果になり、都市部で勤務する看護師の方が高収入を得られる傾向にあることがわかりました。

順位都道府県年収生涯年収(概算)
1位青森県541万円2億3,263万円
2位岐阜県530万円2億2,790万円
3位神奈川県522万円2億2,446万円
4位東京都519万円2億2,317万円
5位埼玉県516万円2億2,188万円

(令和2年賃金構造基本統計調査より算出)

都市部の物価水準が高いことや大学病院をはじめ大規模病院が集中していることも関連していると考えられます。

3.生涯年収を上げるなら「長く働き続けること」が何より大事

短期間で高収入を得たいのであれば、給与水準が高い職場への転職や副業も選択肢ではあります。

しかし、生涯年収という長いスパンで考えるのであれば、収入の高さだけにこだわるのではなく、なるべくブランクを作らずに長く働き続けることが重要です。

ここでは、看護師として長く働き続けるためのポイントを3つ解説していきます。

それでは、1つずつ見ていきましょう。

3-1.ライフスタイルに合わせた職場・雇用形態の選択を

生涯年収を上げるなら、好条件の職場で長期間働き続けることが理想的ですが、出産や育児によって夜勤ができなくなったり、配偶者の転勤についていくことになり退職しなければならなかったりなど、同じ職場・雇用形態で働き続けることが難しいケースもあります。

このようにライフスタイルの変化があっても、なるべくブランクを作らずに働き続けるためには、自分のその時の状況に合わせて働き方を柔軟に選択していく必要があります。

<ライフスタイルに合わせた職場・雇用形態の選択例>

【状況】
総合病院に勤務し現在は妊娠・出産を経て育休中。
育休後に職場復帰の予定はあるが、夜間子どもを見てくれる人がいないので夜勤が出来ない。
【選択肢】

  • 時短制度を利用して3歳までは夜勤をせず家庭優先で働く。その後は同じ職場でパート勤務で働き、子育てが落ち着いたら夜勤ありの常勤に戻る。
  • 日勤常勤が可能な職場(介護施設や保育園、外来、クリニックなど)に転職する
  • 夜勤時の預かりも可能な院内託児所付きの病院に転職する。

3-2.身体面・精神面ともに無理しすぎない

看護師として長く働き続けて生涯年収を上げるためには、身体面・精神面ともに無理をしすぎないことも重要です。 看護師は、夜勤や介護的なケアなど体力面でハードな業務も多い職業です。年齢を重ねると腰痛や体調不良に悩んだり、20代の頃よりも夜勤がきついと感じたりすることも増えるでしょう。

また、医療現場は1つのミスが患者さんの命にかかわることもある緊張感のある職場です。

患者さんの急変や亡くなる場面に遭遇するなど、精神的に負荷がかかる場面も少なくありません。これに加えて、女性が多い職場独特の人間関係の複雑さに悩む方も多くいます。

このような心身ともに過酷な現場であるにもかかわらず、常に人手不足の状態から仕事を休みづらく、身体面・精神面ともについ無理をしてしまう方も多いのが実情です。

無理が続いた結果持病が悪化してしまったり、職場での出来事がトラウマとなって現場に戻れなくなってしまったりする可能性もあります。限界を感じてしまう前に休息を取ることや、休職や転職など職場を離れることも1つの選択肢です。

ブランクをあけずに働き続けることが理想ではありますが、自身の健康状態を第一に考え適宜休息を取りながら働きましょう。

3-3.キャリアを重ねても自己研鑽を続ける

看護師として長く働き続けるためには、日々進歩する医療技術についていかなければなりません。

そのためには、経験年数を重ねても自己研鑽を続けていく必要があります。

時には、自分が新人時代に学んだ手技や根拠が変わることさえあり戸惑いを覚えることもあるでしょう。また、新たな手技や治療法について自分が後輩から教わる立場になることもあるかもしれません。

このような場合でも謙虚に学び続ける姿勢を持つことが、医療現場で働く看護師には求められます。

若手の頃と同じように積極的に研修に参加したり、看護研究に取り組んだりすることは難しい場合もあるとは思いますが、現場で使うスキルに関しては周囲のスタッフと切磋琢磨しながら日々高めあっていきましょう。

さいごに

今回は、看護師の生涯年収をはじめとしたお金事情について解説しました。

看護師の生涯年収は、約2億円と全職種をやや下回る数値です。

しかし、働き方や職場次第では平均以上の生涯年収を稼げる可能性もある職業でもあります。

生涯年収という考え方は看護師人生を決める1つの指標にすぎませんが、この記事があなたの今後の看護師としての働き方を考えるきっかけになれば幸いです。