コロナ禍でリモートワークが進む中で地方移住を検討する人も多いのではないでしょうか。東京圏からの移住者に対しては国が支援をしていますが、自治体も各自の支援策を展開しています。
そこで東京圏以外からの移住者も活用できる地方自治体の魅力的な取り組みをご紹介、地方移住を検討しているが地域を決め切れていない人や、今はまだ地方移住に具体的な興味を抱いていない人にも参考になる情報をお届けします。今回は、『室蘭市(北海道)』です。
(聞き手:北川聖恵、フリーランスライター。毎日新聞記者、海外の出版社での編集を経てフリーに。『日経クロストレンド』『日経クロスウーマン』を始めとした多様な媒体でビジネス、教育など幅広い分野でのインタビュー記事を手掛ける)
今回ご紹介する室蘭市(北海道)の移住支援事業の詳しいお話やまちの魅力について、室蘭市企画課主任の川口陽海氏に伺いました。
1.室蘭市ってどんなまち?
室蘭市の基本データは以下の通りです。
室蘭市データ(参照以外は室蘭市HPの情報)
- 地名の由来:アイヌ語の「モ・ルエラニ」からなまって変化したもので“小さな坂道の下りたところ“という意味
- 面積:81.01㎢
- 人口:7万9113人(男性:3万7810人、女性:4万904人、外国人:399人)※令和4年5月末現在
- 世帯数:4万4519世帯(外国人:295世帯)※令和4年5月末現在
- 平均気温:9.6℃(最高:31.8℃、最低:-9.9℃) ※令和2年データ
- 平均湿度: 79% ※令和2年データ
- 降水量:月最大196mm
- 降雪:室蘭市 における最も降雪量の多い月は 1月であり、平均降雪量は 131 ミリメートルです。(参照:WeatherSpark)
- 事業所数:4150
- 交通アクセス:新千歳空港まで約1時間
- 平均年収:320万円(正社員)(参照:求人ボックス)
- 平均時給:1350円(派遣社員)、897円(アルバイト・パート)(参照:求人ボックス)
「鉄のまち」の系譜を継ぐ製造業と医療福祉系の就職先が充実
海にも山にもとても近く、さまざまな余暇を楽しむことができます。
さらに子育てや医療・介護福祉施設も充実していることから、子育て世代から高齢者までが安心して住み続けられます。
また、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できるように、市内4カ所に相談・支援を行う「包括支援センター」を設置しているほか、介護保険サービスの充実にも努めています。
地球岬は100メートル前後の断崖絶壁が連なり、快晴の日には展望台から太平洋を一望できる国内でも有数の景勝地で、元日には、初日の出を参拝するため、地元だけではなく遠方からの観光客でもにぎわっています。
「工場夜景」や自然の作り出す景色が写真愛好家にも注目され、「フォトジェニックなまち」としての側面も魅力の一つです。
2.室蘭市に移住したくなる移住支援制度
室蘭市では移住者に対する下記の支援制度が整っています。それぞれについて、詳しく伺ってみましょう。
また、日頃から慣れ親しんだコミュニケーションツールを使うことで、電話よりも気軽に相談できるメリットがあると考えています。
クリックで追加
漠然と「北海道に移住したい」と考えている方にも、それぞれのまちの特徴や室蘭で生活した場合の周辺環境の情報を知っていただける有益な機会だと考えています。
制度自体は、室蘭市での生活を実際に体験していただき移住につなげる目的で、市職員住宅を貸出す取り組みを2005年度から行っていました。一定の需要が確認できたため、2009年度からは民間不動産事業者、宿泊業者と連携した体験移住の受け入れを進めています。
3.室蘭市は起業・就業も手厚くサポート
室蘭市では下記のように起業や就業へのサポートも手厚く行っています。
順に伺っていきましょう。
室蘭市の有効求人倍率は1.21倍!
主にまちや企業採用の情報発信など、働き手の確保のための取り組みを企業と相互連携を図りながら効果的に実施しております。
■UIJターン就職連携企業の紹介動画
2023年度から創業者サポートがさらに充実
移住者にはさらに補助金が増額
1.転入加算:一律15万円
事業主(個人)が室蘭市外からの転入者であること(申請日より6ヶ月以内の転入が条件)
2.若者加算:一律5万円
事業主(個人)が申請日時点で、室蘭市在住で35歳以下であること
3.特定業種加算:一律10万円
飲食店の出店であること
4.雇用加算:1人あたり5万円、最大3人で15万円
開業から1年経過した時点で、「6ヶ月以上勤務」「月平均8回以上勤務」「親族以外の室蘭市内在住者」を全て満たす従業員を雇用していること
人口減少対策の一環として研究開発事業やIT系企業の誘致を目的に、室蘭市でビジネスを展開したり、リクルート活動をしたりしていただきつつ、”お試しで仕事ができる場”として企業に利用いただく狙いがあります。
実際にコロナ禍でテレワークの需要が高まったことや、地方移転を検討される企業に活用いただきました。
同時に地方移転やワーケーション、室蘭への視察を検討されている企業向けに交通費や宿泊費を助成する「室蘭市テレワーク移住等推進補助金」も行っています。
現在、「サテライトオフィス室蘭」は公益財団法人・室蘭テクノセンターが運営しており、1人当たり1日500円でご利用いただけます。
4.実際に室蘭市に移住した人の声
続いて、Uターン移住した人の声をご紹介します。
※インタビューは室蘭市のHPで紹介されているものを、市の許可を得て再編集しています。
(1)18年ぶりの室蘭市は変わらず風光明媚は観光資源に恵まれ、海産物や特産物がおいしい
北海道帯広市出身で、室蘭工業大学へ進学し大学時代を室蘭で過ごしたという佐藤さんは、
卒業後18年間は横浜で働いていました。
―18年ぶりに戻った室蘭に変化を感じましたか?
佐藤さん:室蘭の風光明媚な観光資源はまったく変わらずに、18年前と同じように魅力を感じました。学生時代は、室蘭のおいしいものをよく知りませんでしたが、戻ってから色々教えてもらうようになり、特に海産物や室蘭の特産物がとてもおいしいことに気づきました。オフィスの近くにもおいしいお店が多いです。
―市内企業だと、給与水準が首都圏よりも低くなってしまうことがあります。ただ、生活費が首都圏よりも安かったり、お金には換えられない自然があったり、給与の低さを差し引いても生活しやすいまちだと話す人も多いようですが、佐藤さんの実感はいかがでしょうか?
佐藤さん:確かにその通りです。先ほども言いましたが、室蘭は本当に食べ物がおいしいのですが、「海産物がおいしい」というイメージはあまり持たれていないように思います。実はウニもホタテもすごくおいしい。首都圏と比べたらものすごく安く食べることができるので、もっと知ってほしいですね。
室蘭は道の駅に温泉『むろらん温泉ゆらら』もあったり、登別温泉もとても近かったり、すぐ温泉に行ってゆっくりできることも魅力だと思います。
―改めて室蘭へUターン移住された経緯を教えてください。
佐藤さん:室蘭に来る3年前から、弊社・パナソニックITSの田辺孝由樹社長には地域課題解決への想いがあり、それに向けた活動を横浜で開始しました。いくつか活動候補地があったのですが、室蘭はもともと工業で栄えたまちで国立大学の室蘭工業大学もあり、技術に培われた風土がありました。
弊社は車載関連技術に強みがあり、室蘭は交通の要所でもあるため交通技術を活かせると考えました。
当時、『室蘭グリーンエネルギータウン構想』(※編集注後述)が国土交通大臣賞を受賞したり、GIS(地理空間情報システム)の活用やオープンデータを先進的に公開したりと、技術のベースがあったことで「地域課題解決の活動を室蘭でしよう」と決め手になり、2020年4月に室蘭にオフィスを開設しました。
『室蘭グリーンエネルギータウン構想』
低炭素都市の創造を目指して2015年2月に策定。水素エネルギーや再生可能エネルギーなどを利活用し、エネルギーの地産地消および環境産業の振興による地域経済の活性化を目指す。
―室蘭で活動をやっていけるという可能性は感じていますか?
佐藤さん:感じています。室蘭はやる気のある方が多いです。オフィス開設前の2020年2月には市内のタクシー会社に、「一緒に公共交通の課題解決に取り組んでいこう」と言ってもらえました。それが現在のMaaSの取組み(参照:室蘭市 室蘭MaaSプロジェクト)のはじまりです。
廃棄物回収の改善施策についても、事業者の方が「やろう」と言ってくれました。MaaSの実証事業も少数でのスタートでしたが、参加してくれる団体や人が増えてきて、やる気のある人も多く恵まれていると感じています。
(2)10年ぶりに帰った室蘭市は子育てがしやすいまち
―室蘭に戻って来られて改めて感じたまちの良さはありますか?
宮武さん:室蘭には高校生の時に住んでいたのですが、当時は工場がたくさんあって活気のあるまちで、多くの若い人が働いているというイメージでした。高校卒業後、10年ほどたってから戻ったのですが、その時感じたのが「落ち着いていて子育てのしやすいまち」ということです。
夏は暑すぎず、冬の降雪も多くなく、1年を通じて過ごしやすい気候です。昔よりは子どもが減ってしまった分、町の人たちが声をかけてくれるのでみんなで子育てをしている感覚になれました。
―室蘭でお子さんと一緒に遊ぶのにお気に入りの場所、おすすめの場所はありますか?
宮武さん:海もすぐ近くにあり、スキー場もあるので、夏は釣り、冬はスキーを楽しんでいます。同じ市内でも少し行くだけで景色が変わるので、遊び場は豊富です。幼児とは屋内の遊び場のある生涯学習センター『きらん』によく一緒に行きます。天候に関係なく一年中遊べるのでありがたいです。
―室蘭から都会に行った人たちから「地元での子育てがいい」「自分たちが経験した室蘭での生活を体験させたい」という声をよく聞きます。
宮武さん:地元に帰ってきている人が多いのは感じますね。みなさん、いったん外に出ても改めて室蘭の良さを実感しているようです。
5.まとめ
また、新しく店舗を開業したい方に向けても、室蘭へ移住された方にはさらに加算するなど、移住者向けの手厚い支援制度をご用意しています。
室蘭で新たな可能性を見つけていただき、チャレンジしてほしいと思っています。まずは一度、室蘭へお越しいただき自然を感じてもらい、室蘭を好きになってもらって、ぜひ室蘭ぐらしをはじめていただければ嬉しいです。
室蘭市の支援制度一覧 ※クリックすると各制度の解説に移動します。
〈移住支援〉
〈起業・就業支援〉
室蘭市HP:
http://www.city.muroran.lg.jp/
北海道での転職に役立つ記事一覧
現役の転職コンサルタント集団。大手人材会社に在籍しているメンバーが多いため、執筆内容に制約がかからないように『匿名性』とし、裏事情やノウハウを包み隠さずにご紹介しています。
パナソニックITS株式会社室蘭開発室 新規事業推進課課長 佐藤慎吾さん